・・・ けだし、我々明治の青年が、まったくその父兄の手によって造りだされた明治新社会の完成のために有用な人物となるべく教育されてきた間に、べつに青年自体の権利を認識し、自発的に自己を主張し始めたのは、誰も知るごとく、日清戦争の結果によって国民・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・のような抽象映画は一つの暗示として有用な意義をもちうるわけである。少なくもこういう見地からこれらの二種の映画をながめてそれぞれの存在理由を認めることもできそうである。 新しい考えの生まれるためには何かしら暗示が必要である。暗示の種は通例・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・ もし、この一編の覚え書きのような未定稿が、映画の製作者と観賞者になんらかの有用な暗示を提供することができれば大幸である。 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・ すなわち、文学が芸術であるためには、それは人間に有用な真実その物の記録でなければならない。また逆にすべての真実なる記録はすべて芸術であるというのである。どんな空想的な夢物語でも多感な抒情詩でも、それが真の記録であるゆえに有益であり同時・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ 今度の伊豆地震など、地震現象の機構の根本的な研究に最も有用な資料を多分に供給するものであろうが、学者の熱心がいかに強くても研究資金が乏しいため、思う研究の万分の一もできないであろうから、おそらくこの貴重な機会はまたいつものように大部分・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・というがごときは多数の世人に有用有意義なり。またもし「一週間内に東海道の大部分に降雨あるべし」との予報をなし得たりとせば、東京市民にとりては極めて漠然たる印象を与うべし。これ予報の範囲が東京市民の日常生活上雨に関して利害を感ずる範囲に比して・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・むだはむだでも有用なむだであるとも言われる。 十進法というのは言わば単式の数え方であって十干だけを用いると同等である。甲を一、乙を二、丙を三と順々に置き換えてしまえば、たとえば二十三と言う代わりに乙丙と言っても文字がめんどうなだけで理屈・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・一枚の代価十三銭であるが、その一枚からわれわれが学べば学び得らるる有用な知識は到底金銭に換算することのできないほど貴重なものである。今かりにどれかの一枚を絶版にして、天下に撒布されたあらゆる標本を回収しそのただ一枚だけを残して他はことごとく・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
・・・またそういう事が何故に年賀状有用論の根拠になるかは、おそらく彼自身の外には分らないであろう。 彼は時としてまたひどく感傷的な事をいう。「年賀はがきの宛名を一つ一つ書いてゆく間に、自分の過去の歴史がまるで絵巻物のように眼前に展べられる。も・・・ 寺田寅彦 「年賀状」
・・・科学という霊妙な有機体は自分に不用なものを自然に清算し排泄して、ただ有用なるもののみを摂取し消化する能力をもっているからである。しかしもしも万一これら質的研究の十中の一から生まれうべき健全なるものの萌芽が以上に仮想したような学風のあらしに吹・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
出典:青空文庫