・・・我々は現に社会の一人である以上、親ともなり子ともなり、朋友ともなり、同時に市民であって、政府からも支配され、教育も受けまた或る意味では教育もしなければならない身体である。その辺の事をよく考えて、そうして相手の心理状態と自分とピッタリと合せる・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・本年春の頃或る米国の貴婦人が我国に来遊して日本の習俗を見聞する中に、妻妾同居云々の談を聞て初の程は大に疑いしが、遂に事実の実を知り得て乃ち云く、自分は既に証明を得たれども、扨帰国の上これを婦人社会の朋友に語るも容易に信ずる者なく、却て自分を・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・親戚朋友の注意すべきことなり。一度び互に婚姻すればただ双方両家の好のみならず、親戚の親戚に達して同時に幾家の歓を共にすべし。いわんや子を生み孫を生むに至ては、祖父を共にする者あり、曾祖父を共にする者あり、共に祖先の口碑をともにして、旧藩社会・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・ ついでまた朋友親戚等より、某国産の銘葉を得て、わずかに一、二管を試みたる後には、以前のものはこれを吸うべからざるのみならず、かたわらにこれを薫ずる者あれば、その臭気を嗅ぐにも堪えず。もしも強いて自からこれを用いんとすれば、ただ苦痛不快・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
・・・東京には其男の親類というものが無いので、我々朋友が集まって葬ってやった事がある。其時にも棺をつめるのに何を用いるかと聞いてみたら、東京では普通に樒の葉なども用いるという事であった。それからそれを買うて来て例の通り紙の袋を拵えてつめて見た所が・・・ 正岡子規 「死後」
・・・然れども余は他の方面より、余の此事あるが為に老年の両親を苦しましめ、朋友に苦慮を増さしむるを思へば、自己一身の為に他者を損ふの苦痛をなすに堪へず。遂に彼女に送るに絶交の書を以てせり。されども余の素願は、固より彼女の内部に潜める才能を認め、願・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・そして、最も自然な、在り得べき想像として、一人の信頼すべき異性が、自分の最も近い朋友と成ったと仮定します。 その場合、その人に対する友情は、自分の語り度い、忘れ得ない愛する者を、倶に愛し、認めてくれる、という点に源泉を持っているのです。・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・「対人的には朋友を信じ博愛衆に及ぼし」近衛文麿、永井柳太郎等が文学を判ろうとしている誠意に感奮して、「実行の文学」を唱え、某方面の後援によって満州へ出かけられることに誇りを感じているらしい姿も、林氏の言葉につれて読者の心に思い浮んで来るので・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・親戚朋友がよろこびを言いに来ると、又七郎は笑って、「元亀天正のころは、城攻め野合せが朝夕の飯同様であった、阿部一族討取りなぞは茶の子の茶の子の朝茶の子じゃ」と言った。二年立って、正保元年の夏、又七郎は創が癒えて光尚に拝謁した。光尚は鉄砲十挺・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・ 某平生朋友等無之候えども、大徳寺清宕和尚は年来入懇に致しおり候えば、この遺書国許へ御遣わし下され候前に、御見せ下されたく、近郷の方々へ頼入り候。 この遺書蝋燭の下にて認めおり候ところ、只今燃尽き候。最早新に燭火を点候にも及ばず、窓・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」
出典:青空文庫