・・・ 未完成な作品として「運・不運」はそのことを積極的な評価として推薦されているわけだが、未完成なのはこの作者と作品のどこのことについてかと、考えさせられた。それは主として小説を書く技術のことではないのだろうか。何故なら、この作者は自分の描・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・「横光の自我は現実を截断する力がないから未完成である」と。普通の言葉でこれを云うと、横光氏の生活、思想態度は頭の中でだけ描かれ組立てられていて、現実の矛盾にとり組む芸術的リアリティーをもっていないから未しであるという意味なのである。 か・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 春山行夫という批評家は、その人としてのいい方で、横光の自我は現実を裁断する力がないから未完成である、といっている。これは普通の言葉でいうと、横光の生活的作家的生きかたは、要するに頭の中だけで問題をこねているから、まだであるということに・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・という感想文の中で、同志小林は作家としても理論家としても未完成であったが、その英雄的死によって未完成を完成したという意味のことを書いている。その文中では完成、未完成、あるいは性格というようなものが固定的に扱われていた。同志小林が敵に虐殺され・・・ 宮本百合子 「前進のために」
・・・若し私が筆を控えることがあれば、其れは、未完成な自分が、先生の全部を知るに足りないものであると云う自覚によるばかりだ。私は先生に自分を些も隠そうとしないと同様に、自分は先生から遠慮なく何でも感じられる丈のものを感じ、吸収される丈のものを吸収・・・ 宮本百合子 「弟子の心」
出典:青空文庫