・・・ 弟達が来ますと、二人に両方の手を握らせて、暫くは如何にも安心したかの様子でしたが、末弟は試験の結果が気になって落ちつかず、次弟は商用が忙しくて何れも程なく帰ってしまいました。 二十日の暮れて間もない時分、カツカツとあわただしい下駄・・・ 梶井久 「臨終まで」
・・・ほんとうは、鏡花をひそかに、最も愛読していた。末弟は、十八歳である。ことし一高の、理科甲類に入学したばかりである。高等学校へはいってから、かれの態度が俄然かわった。兄たち、姉たちには、それが可笑しくてならない。けれども末弟は、大まじめである・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・佐吉さんの兄さんは沼津で大きい造酒屋を営み、佐吉さんは其の家の末っ子で、私とふとした事から知合いになり、私も同様に末弟であるし、また同様に早くから父に死なれている身の上なので、佐吉さんとは、何かと話が合うのでした。佐吉さんの兄さんとは私も逢・・・ 太宰治 「老ハイデルベルヒ」
・・・謂わんや、ふるさとの人々の炉辺では、辻馬の家の末弟は、東京でいい恥さらしをしているそうだのう、とただそれだけ、話題に上って、ふっと消え、火を掻き起してお茶を入れかえ、秋祭りの仕度に就いて話題が移ってゆく、という、そんな状態ではないかと思う。・・・ 太宰治 「善蔵を思う」
・・・ 末弟は、十八歳である。ことし一高の、理科甲類に入学したばかりである。高等学校へはいってから、かれの態度が俄然かわった。兄たち、姉たちには、それが可笑しくてならない。けれども末弟は、大まじめである。家庭内のどんなささやかな紛争にでも、必・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・ 夕食近く、エーの末弟が来る。彼のスウェーターはまだ出来上らない。〔一九二四年一月〕 宮本百合子 「静かな日曜」
・・・ この本の印刷された年代で見ると、祖父は三十前後の壮年で、末弟が十七八であったらしい。恐らく末弟――私からは伯父に当る少年が、当時住んでいた米沢で、この本を読みでもしたかと思われる。彼は、木綿の「裾細」をはいて、膝位まである雪を踰え、友・・・ 宮本百合子 「蠹魚」
・・・幸いその子は舅の末弟の息子であり、その妻君が離別された後ひきとられて育てられていたのだということが判明しました。 父は純真な性格の人で、三十歳ではあったがそれ迄道楽もせずにいました。互に諒解が行ったらしいが、明治三十二年の末頃生れて百日・・・ 宮本百合子 「わが母をおもう」
出典:青空文庫