・・・八雲氏令孫の筆を染めたという書名題字もきわめて有効に本書の異彩を添えるものである。 小泉八雲というきわめて独自な詩人と彼の愛したわが日本の国土とを結びつけた不可思議な連鎖のうちには、おそらくわれわれ日本人には容易に理解しにくいような、あ・・・ 寺田寅彦 「小泉八雲秘稿画本「妖魔詩話」」
・・・他日機会があったらもう少し補充してまとめたいと思っているが、本書所載の他の論文にしばしば引き合いに出ている関係上参照の便宜のためにこのままここに採録した次第である。 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・然るに本書には特に女子の婬乱を以て離縁の理由とす。亦是れ方角違いの沙汰と言う可きのみ。第四悋気深ければ去ると言う。是れ亦解す可らず。夫婦家を同うして夫の不品行なるは、取りも直さず妻を虐待するものなり。偕老を契約したる妻が之を争うは正当防禦に・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・一、本書はもっぱら中津旧藩士の情態を記したるものなれども、諸藩共に必ず大同小異に過ぎず。或は上士と下士との軋轢あらざれば、士族と平民との間に敵意ありて、いかなる旧藩地にても、士民共に利害栄辱を與にして、公共のためを謀る者あるを聞かず。故・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・両者の間に区別あるは、もとより論をまたざるところなり。本書すでに教科書の名あるからには、これによりて少年学生輩の徳心を誘導して、純良の君子たらしめんとの目的なるべし。 然らばすなわち、徳行の条目を示し、人たるものはかくあるべし、かくある・・・ 福沢諭吉 「読倫理教科書」
・・・吾々が本書で試みたように全歴史を一個の過程として眺めるとき、すなわち生命の着々たる向上的闘争を見るとき、その時こそ吾々は、現在の希望や危険が全歴史上で占める真の意義を知るであろう。まだ吾々はやっと人類の偉大さの最初の黎明期に達したばかりであ・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・江戸で出した国書の別幅に十一色の目録があったが、本書とは墨色が相違していたそうである。 この日に家康は翠色の装束をして、上壇に畳を二帖敷かせた上に、暈繝の錦の茵を重ねて着座した。使は下段に進んで、二度半の拝をして、右から左へ三人並んだ。・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
出典:青空文庫