・・・もっともこの時分には、もううちの本棚への木戸御免で、その又本棚というのが考えれば途方もないものだった。居間のとなりに長四畳があってそこに父の大きいデスクが置いてある。背後が襖のない棚になっていて、その上の方に『新小説』『文芸倶楽部』『女鑑』・・・ 宮本百合子 「祖父の書斎」
・・・ いきなり格子を開けると玄関になるのを妙に思い、当惑したような微笑を漂せ乍ら、本棚の並んだ八畳を見た。 Aは、重い棚を動かし乍ら「どう? 気に入りますか?」と訊いた。彼の姿を見、自分は、種々なこだわりを忘れて「結構じゃあ・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・ こんな本はどれもみんな父や母の若かった時分の蔵書の一部なのだが、両親は、生涯本棚らしい本棚というものを持たなかった。その代り、どこの隅にもちょいちょい本を置くところがあって、どこにでも坐ったところには、手にとってみる本があるという暮し・・・ 宮本百合子 「本棚」
・・・ コンクリートの廊下を戻って来ると、一つの室のドアが開けっぱなしになっている。窓から射す明るみの中でパッと赤い布をかけたテーブルが浮立っている。「ああ、これがここに働くもののクラブです」 本棚がある。小説類、レーニン論文集、生理・・・ 宮本百合子 「モスクワ日記から」
・・・粗末な古い木の床の左右は本棚である。トルストイ、トゥルゲニェフ、チェホフ、ゴーリキー、リベディンスキー、グラトコフ。それらの英訳が各国の翻訳論文集や、ミル、アダム・スミスとともに立ててある。ここは本屋でもある。正面の勘定台に男が二人、一人は・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫