・・・に映出される本物の機械の美しさは、実に見ていて胸がすくようである。同じ意味でソビエト映画「トルクシヴ」に現われる紡績機械もおもしろい。そうして「自然の破壊」における大仕掛けの機械架構が、どうも物足りなく思われるのである。「トルクシヴ」も・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・これで思い出すのは、いつかウーファの教育映画で本物の生きた「ひとで」のきわめて鮮明な大写しを見た、その「科学的なひとで」のほうにかえってはるかに美しく真実な詩があった。マン・レイの「ひとで」の中にも少しばかりこれに似た実写が插入されているが・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・小猿が二匹向かい合って蚤をとり合ったりけんかをしたりするのが、どうしても本物としか思われないのに、それはやはりただなんの仕掛けもない二つの手の影法師に過ぎないのである。そのほかに、たとえば、飲んだくれの亭主が夜おそく帰って来て戸をたたくと女・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・ただ今のはナイフの広告でございました。本物のいいのを持って参ります。」と云いながら給仕は引っ込んで行きました。 するとどうもネネムも検事もだれもかれもみんな愕いてしまったことは、いつの間にか、どうして出て来たのか、すてきに大きな青いばけ・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・ いい茶ですね、本物の青茶だ。 十一月四日。 ウラジヴォストクへいよいよ明日着きはつくが、何時だか正確なことが分らない。午前二時頃かもしれない。然し五時頃かもしれないんだそうだ。昨夜、Y、気をもんで、若し午前二時に着くのならホテ・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・構わん構わん……清正が退治したのは本物の虎さ。だが虎は朝鮮でもずっと北へ行かないじゃいまいよ」「ふーん」 暫くまた二人の話をきいていたが、一太は行儀よくしていることに馴れないから、籠に入れられた犬のように節々がみしみしして来た。一太・・・ 宮本百合子 「一太と母」
・・・従って創作も本物でない、ともいうけれど、私経験というものには大した価値をおいていないのよ、ほんの小さい経験からいろいろなことを想像し、推理し、観察しておどろくべき大きな人生を見ることが出来るのですものね。〔一九二五年五月〕・・・ 宮本百合子 「久野さんの死」
・・・ どっちの陣営の作品でも、それをひろい客観的条件の前にはっきり浮き上らせて、見なおさせ、比べ、それが評価されるべき評価をうけていることを、静かにつよく感銘させるのが、本物の批評である。 作品の欠点や、チャチなところだけをつまみだして・・・ 宮本百合子 「こういう月評が欲しい」
・・・こいつぁ本物になるぞと。ところがこいつがいつの間にか小説から消えちまった。カラシュークが富農どもをやっつけたってのは、本当じゃない。富農らはカラシュークの味方だ。村で誰が味方かということをカラシュークの一味はチャンと知っている。カラシューク・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・これまでもストリンドベルクは本物の気違になりはすまいかと云われたことが度々あるが、頃日また少し怪しくなり掛かっている。いずれも危険である。 英文学で、Wilde の代表作としてある Dorian Gray を見たら、どの位人間の根性が恐・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
出典:青空文庫