・・・「え、藤色とばかりじゃ、本読みが納まらねえぜ。足下のようでもないじゃないか」「眩くってうなだれたね、おのずと天窓が上がらなかった」「そこで帯から下へ目をつけたろう」「ばかをいわっし、もったいない。見しやそれとも分かぬ間だった・・・ 泉鏡花 「外科室」
・・・その先生の処へ本読みに行く一人の子供の十余りなるがあったが、いつでもその家を出がけにそこの中庭へ庭一ぱいの大きな裸男を画いて置くのが常であった。それとも知らずその内の人が外へ出ようとすると中庭に大男が大物を抱いて居る画があるので度々驚かされ・・・ 正岡子規 「画」
・・・七つ八つの子供から七十近い爺さん婆さんまで、「そろそろまた本読みさ行くか」と、やって来る人々に向って、いつも一人の人間、つるの曲った眼鏡の先生が、あきもせず、いろんな詩、小説、戯曲をよんできかせてやる。 みんなは唸ったり、退屈だ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・「民衆の意志団員」ゲオルギー・プレハーノフの「我等の意見の対立」というものである。そうパン焼のゴーリキイはきかされた。朗読がすすむにつれ暗闇の中で、「愚論!」と吼える者がある。「本読みは退屈な程長くつづく。」ゴーリキイは聴き草臥れる・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ 学生の集りへ出かけても、本読みは退屈なほど長くつづき、生来論争の好きでないゴーリキイには「興奮した思想の気まぐれな飛躍を追うことが困難であり」、いつも論争者の自愛心が彼をいら立たせるのであった。 今日の歴史によって顧れば、ゴーリキ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
出典:青空文庫