・・・……まず、開通式といった日に、ここの村長――唯今でも存命で居ります――年を取ったのが、大勢と、村口に客の歓迎に出ておりました。県知事の一行が、真先に乗込んで見えた……あなた、その馬車――」 自動車の警笛に、繰返して、「馬車が、真正面・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・一度は村長までした人だし、まあお前の婿にして申し分のないつもりじゃ。お前はあそこへゆけばこの上ない仕合せとおれは思うのだ。それでもう家じゅう異存はなし、今はお前の挨拶一つできまるのだ。はずれの旦那はもうちゃんときまったようなつもりで帰られた・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・小学校には生徒から名前の呼び棄てにされている、薫という村長の娘が教師をしていた。まだそれが十六七の年頃だった。―― 北牟婁はそんな所であった。峻は北牟婁での兄の話には興味が持てた。 北牟婁にいた時、勝子が川へ陥ったことがある。その話・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・ そのくせ生徒にも父兄にも村長にもきわめて評判のよいのは、どこか言うに言われぬ優しいところがあるので、口数の少ない代わりには嘘を言うことのできない性分、それは目でわかる、いつも笑みを含んでいるので。 嫁を世話をしよう一人いいのがある・・・ 国木田独歩 「郊外」
・・・「私唯だ倉蔵これを急いで村長の処へ持て行けと命令りましたからその手紙を村長さん処へ持て行って帰宅てみると最早仕度が出来ていて、私直ぐ停車場まで送って今帰った処じゃがの、何知るもんかヨ」「フーン」と校長考えていたが「何日頃帰国ると言わ・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・ 村の在郷軍人や、青年団や、村長は、入営する若ものを送って来る。そして云う。国家のために入営するのは目出度いことであり、名誉なことであり、十分軍務に精励せられることを希望する、と。 若ものたちは、村から拵えてよこした木綿地の入営服か・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・くるくる坊主ですねここの村長は」「ええ、ほほほ」「そしたらあの人が親切に心配してくれたんです」「そしてここの小母さんに、私は母というものがないんだから、こんな家へ置いてもらったらいいのですがって、そうおっしゃったのですってね」・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・校長や、村長との関係も、それや、ややこしいんだぜ。言いたくもねえや。僕は、先生なんていやだ。僕は、本気に勉強したかったんだ。」「勉強したら、いいじゃないか。」根が、狭量の私は、先刻この少年から受けた侮辱を未だ忘れかねて、やはり意地悪い言・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・の代表者であるところのおとうさんの村長殿である。 二 居酒屋 ゾラの「居酒屋」を映画化したものだそうである。原著を読んでいないからそれとの交渉はわからない。しかし普通のアメリカの小説映画とは著しくちがった特徴のあるこ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・「ここの村長は――今は替わりましたけれど、先の人がいろいろこの村のために計画して、広い道路をいたるところに作ったり、堤防を築いたり、土地を売って村を富ましたりしたものです。で、計画はなかなか大仕掛けなのです。叔父さんもひと夏子供さんをお・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
出典:青空文庫