・・・ 八 青木というのは、来遊の外国人を当て込んで、箱根や熱海に古道具屋の店を開き、手広く商売が出来ていたものだが、全然無筆な男だから、人の借金証書にめくら判を押したため、ほとんど破産の状態に落ち入ったが、このごろでは多・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・ 葉松石は同じころ、最初の外国語学校教授に招聘せられた人で、一度帰国した後、再び来遊して、大阪で病死した。遺稿『煮薬漫抄』の初めに詩人小野湖山のつくった略伝が載っている。 毎年庭の梅の散りかける頃になると、客間の床には、きまって何如・・・ 永井荷風 「十九の秋」
・・・ロッチが初て日本に来遊したのは、そが日光山の記に、上野停車場を発した汽車が宇都宮までしか達していない事が記されているので、明治十六、七年のころであったらしい。当時ロッチの見た日本の風景と生活にして今は既に湮滅して跡を留めざるものも少くはない・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・本年春の頃或る米国の貴婦人が我国に来遊して日本の習俗を見聞する中に、妻妾同居云々の談を聞て初の程は大に疑いしが、遂に事実の実を知り得て乃ち云く、自分は既に証明を得たれども、扨帰国の上これを婦人社会の朋友に語るも容易に信ずる者なく、却て自分を・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ 前年外国よりある貴賓の来遊したるとき、東京の紳士と称する連中が頻りに周旋奔走して、礼遇至らざる所なきその饗応の一として、府下の芸妓を集め、大いに歌舞を催して一覧に供し、来賓も興に入りて満足したりとの事なりしが、実をいえばその芸妓なる者・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ 去年の夏頃米国に来遊して間もなく“Saint's Progress”と云う四百頁余の長篇が出版されて六月から八月までに四版を重ねた。 その他に今解っている作品集は “The Man of Property.” “The C・・・ 宮本百合子 「最近悦ばれているものから」
出典:青空文庫