・・・西洋文化は前者の方向へ行ったものであり、東洋文化は後者の方向にその長所を有つということができる。しかし今や我々は自己矛盾性の根元に返って、真の矛盾的自己同一の立場から出立せねばならぬと思う。そこに東西文化の融合の途があるのである。而して私は・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・それで彼らのヴィジョンが破れ、悠々たる無限の時間が、非東洋的な現実意識で、俗悪にも不調和に破れてしまった。支那人は馳け廻った。鉄砲や、青竜刀や、朱の総のついた長い槍やが、重吉の周囲を取り囲んだ。「やい。チャンチャン坊主奴!」 重吉は・・・ 萩原朔太郎 「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」
・・・抑も東洋西洋等しく人間世界なるに、男女の関係その趣を異にすること斯の如くにして、其極日本に於ては青天白日一妻数妾、妻妾同居漸く慣れて妻と妾と親しむと言う。畢竟するに其親愛が虚偽にもせよ、男子が世にもあられぬ獣行を働きながら、婦人をして柔和忍・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・寧ろロシアの文学者が取扱う問題、即ち社会現象――これに対しては、東洋豪傑流の肌ではまるで頭に無かったことなんだが――を文学上から観察し、解剖し、予見したりするのが非常に趣味のあることとなったのである。で、面白いということは唯だ趣味の話に止ま・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・概して言えば東洋の美術文学は消極的美に傾き、西洋の美術文学は積極的美に傾く。もし時代をもって言えば国の東西を問わず、上世には消極的美多く後世には積極的美多し。されば唐時代の文学より悟入したる芭蕉は俳句の上に消極の意匠を用うること多く、従って・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・けれども元来きものというものは、東洋風に寒さをしのぐという考も勿論ですが、一方また、カーライルの云う通り、装飾が第一なので結局その人にあった相当のものをきちんとつけているのが一等ですから、私は一向何とも思いませんでした。実際きものは自分のた・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ 携帯口糧のように整理された文化の遺産は、時にとって運ぶに便利であろうけれども、骨格逞しく精神たかく、半野生的東洋に光を注ぐ未来の担いてを養うにはそれだけで十分とは云い切れまいと思える。 三代目ということは、日本の川柳で極めてリアル・・・ 宮本百合子 「明日の実力の為に」
・・・ 琥珀のような顔から、サントオレアの花のような青い目が覗いている。永遠の驚を以て自然を覗いている。 唇だけがほのかに赤い。 黒の縁を取った鼠色の洋服を着ている。 東洋で生れた西洋人の子か。それとも相の子か。 第八の娘は裳・・・ 森鴎外 「杯」
・・・「閣下、これは東洋の墨をお用いにならなければなりません」 この時から、ナポレオンの腹の上には、東洋の墨が田虫の輪郭に従って、黒々と大きな地図を描き出した。しかし、ナポレオンの田虫は西班牙とはちがっていた。彼の爪が勃々たる雄図をもって・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・これは恐らく二千年の歴史を持った東洋画の伝統がしからしめるところであって、この特長を活用するところに日本画家の誇りも存するのであろう。洋画家の理想画や歴史画が幻想の不足のために滑稽に堕している間に、日本画家がこの方面である程度の成功を見せて・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫