・・・「僕は二時半の東海道線だが、尤も本所へも寄って行きたいのだが、本所はずれまで人力で往復しては日が暮れてしまうからネ。」「本所へ行くなら高架鉄道に乗ればよい。」「そうか。高架鉄道があるのだネ。そりゃ一番乗って見よう。君この油画はどうだ非常にま・・・ 正岡子規 「初夢」
・・・大阪、京都などのような都会は、違った文化が見られて悪るくはないと思いますが、旅として見て、東海道あたりの海が見え、松があるといった美しいだけで、唯長々と眠につづいている整然とした風景よりも、変化のある北の方が好ましいと思います。 旅行で・・・ 宮本百合子 「愛と平和を理想とする人間生活」
・・・――私も北海道なぞとあんな遠いところへつれてっていただきましたが、東海道は始めてでございますから――こんな結構なところ拝見させていただきまして」 佐和子は、それをきき、みわや両親が憐れになった。みわは十七位のとき、まだ赤坊であった佐和子・・・ 宮本百合子 「海浜一日」
・・・ 波間 東海道線を西の方から乗って来て、食堂などにいると、この頃の空気が声高な雑談の端々から濛々とあたりを罩めている。儲けたり、儲けそこなったりの話である。 或るカイタイ会社が北海道のどこかで暗礁にのりあげ・・・ 宮本百合子 「くちなし」
・・・それに家の前は八間のコンクリートの国道であり、後方には東海道本線が走り、クラウゼ的な丘陵で、落付けません。道ばたのあの土堤や松はもうない。つまり、あったとさえ想像出来ぬように無いのです。ですから私はやっぱり市内に家をさがしましょう。十二月中・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 大船という停車場へ降りたことのある人は知っているに違いないが、ここはおかしい停車場だ。東海道本線では有名で、幾とおりものプラットフォームには、殆どいつも長い客車、貨物列車のつながりが出入りしているのに、駅じゅうに赤帽がたった一人しかい・・・ 宮本百合子 「この夏」
・・・汽車の交渉と、食糧を持って来る。汽車東海道は箱根附近の線路破かいされた為金沢から信越線にゆき、大宮頃迄だろうと云う。鎌倉被害甚しかろうと云うので、国男のこと事ム所の父のことを思い、たまらなし。 九月四日 火曜日 午後四時五十七分・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・ 然し東海道線は不通になっている。その混乱の裡に、用意なしには戻れない。入京は非常に困難らしいが、幸いなことに、私共は四日の午後に、何がなくとも、福井を出発する準備をしていた。米原から東京駅までの寝台券も取ってあった。それを信越線迂回に・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
・・・尾張国では、犬山に一日、名古屋に四日いて、東海道を宮に出て、佐屋を経て伊勢国に入り、桑名、四日市、津を廻り、松坂に三日いた。 一行が二日以上泊るのは、稀に一日の草臥休をすることもあるが、大抵何か手掛りがありそうに思われるので、特別捜・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・しかしそれとともにあたかも日本に街路樹がなかったかのごとくに考えてしまうということは、前に言った色盲である。東海道の松並み木や日光の杉並み木などは、世界に類例のないほど豪壮な街路樹ではないか。松の幹が大きくうねって整列していないということは・・・ 和辻哲郎 「城」
出典:青空文庫