・・・が、此場合では小林はその役目を果す事は出来なかった。 時間は、吹雪の夜そのもののように、冷酷に経った。余り帰りが遅くなるので、秋山の長屋でも、小林の長屋でも、チャンと一緒に食う筈になっている、待ち切れない夕食を愈々待ち切れなくなった、餓・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
・・・インガは自分の任務を果すことに忙しい。 ルイジョフは、いつかこの精力的で誠実な工場管理者を大衆の前で恥しめようとして失敗して以来、目に見えた反抗はしない。が、インガがソヴェト型の婦人服見本を用意することを命じた、その仕事をひっぱって、金・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・そして、もしも、級全体が、或る不満にかかわらず、なおその人に級長として止って欲しいというときは、正直にその希望に従い、不満を抱いた人たちに悪い感情をもたず、自分自身の成長の問題として、なおよく責任を果すように努力してゆく、そういう少女こそ、・・・ 宮本百合子 「美しく豊な生活へ」
・・・良人カールとその同志たちの行動は「実に犯してよい行動、本来からいえばブルジョアジーの果すべき義務であるべきもの」であるとしたエンゲルスの理論の正当さは、妻たるイエニーの愛情を通して犇々と理解されたに違いない。プロシヤ政府は外国人の退去命令を・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・故に、作家は作家であれば足りるのであって特別な現実を観る眼、世界観等というものは不用である、作品は作品である限り進歩的な役割を自ら果すものであるという風な論がリアリズムについてなされた。このことに連関して、バルザックは王党派であったにも拘ら・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・うものは、だんだん部分品になってゆくものだから、部分品が全部噛み合わさった状態における人間というようなことを考えるのは大へんな難事業ですから、部分品としての消閑慰安の具となれば、それだけで社会的使命を果すという考えかたが非常にあるんじゃない・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・主君の申つけられ候は、珍らしき品を買い求め参れとの事なるに、このたび渡来候品の中にて、第一の珍物はかの伽羅に有之、その木に本末あれば、本木の方が尤物中の尤物たること勿論なり、それを手に入れてこそ主命を果すに当るべけれ、伊達家の伊達を増長致さ・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・主君の申つけられ候は、珍らしき品を買求め参れとの事なるに、このたび渡来候品の中にて、第一の珍物はかの伽羅に有之、その木に本末あれば、本木の方が、尤物中の尤物たること勿論なり、それを手に入れてこそ主命を果すに当るべけれ、伊達家の伊達を増長致さ・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」
・・・口に出して言いつけられぬうちに、何の用事でも果たすような、敏捷な若者で、武芸は同じ年頃の同輩に、傍へ寄りつく者もないほどであった。それに遊芸が巧者で、ことに笛を上手に吹いた。 ある時信康は物詣でに往った帰りに、城下のはずれを通った。ちょ・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
・・・報酬はもちろん受ける、しかし自分の任務を果たすことが第一であるから、もし患者が報酬を払わなくともそれを取り立てようとはせぬ。そうして報酬とまるで釣合わないような苦しい労働である場合でも、病気とあれば、黙々として自分の任務を果たした。父が患者・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫