・・・ これで見ても樹木などの枝葉の量と樹幹の大きさとが、いかによく釣合が取れて、無駄がなく出来ているかが分る。それを人間がいい加減な無理をするものだから、少しの嵐にでも折れてしまうのである。 三 いわゆる頭脳・・・ 寺田寅彦 「断片(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・ただ自分の主観の世界における先生のおもかげを、自分としてはできるだけ忠実に書いてみたつもりであるが、学者として、作家として、また人間としての先生の面影を紹介するものとしては、あまりにも零細な枝葉の断片に過ぎないものである。これについてはひた・・・ 寺田寅彦 「夏目漱石先生の追憶」
・・・ あらゆる先入観念を捨て、あらゆる枝葉の利害を除いて最も本質的にこの問題を考えてみたならば、私がここに言っていることが必ずしも無稽なものでない事が了解されはしないかと思う。 次に考えなければならないのはいわゆる社会欄である。この欄の・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・ 複雑な実際問題を研究して先ずその真相を明らかにしようという場合には、先ずその大体を明らかにして枝葉を後にするのが肝要である。これも多くの人にとっては平凡な事であろうが、世人からは往々忘れられる事である。渾沌とした問題を処理する第一着手・・・ 寺田寅彦 「物理学の応用について」
・・・しかし、そういう一番肝心な基礎的なことがよく分からないで枝葉のデテールをごたごたに暗記して、それで高等学校の入学試験をパスし、大学の関門を潜り、そうして極めてスペシァルなアカデミックな教育を受けて天晴れ学士となり、そうしてしかも、実はその専・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・結局、根本の事項さえよくのみ込んでいればそれに連れた枝葉の点などはさほど労せずとも、自然にあらわれて来るものである。こうして根本の略筋さえ明瞭に記憶していれば、思想は一貫して、比較的正確の答案が作れることになる。 ひとりこの抜き書きのみ・・・ 寺田寅彦 「わが中学時代の勉強法」
・・・ そうかと思うと、たとえばはげしい颶風があれている最中に、雨戸を少しあけて、物恐ろしい空いっぱいに樹幹の揺れ動き枝葉のちぎれ飛ぶ光景を見ている時、突然に笑いが込みあげて来る。そしてあらしの物音の中に流れ込む自分の笑声をきわめて自然なもの・・・ 寺田寅彦 「笑い」
・・・此辺は枝葉の議論として姑く擱き、扨婦人が夫に対して之を軽しめ侮る可らずとは至極の事にして婦人の守る可き所なれども、今の男女の間柄に於て弊害の甚しきものを矯正せんとならば、我輩は寧ろ此教訓を借用して逆に夫の方を警めんと欲する者なり。顔色言語の・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ 然らばすなわち論者が不平を訴うるところは、事の元素にあらずしてその枝葉にあり、政府の精神にあらずしてその外形にあること、明らかに知るべし。この枝葉・外形の事よりして双方の間に不和を生じ、改進の一元素中に意外の変を起すは、国のためにもっ・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・ 長篇・短篇と形の上での区分けが枝葉であるということも、作品の持ち味だとか、境地だとか、そんなものの翫味に散文としてこの小説の精髄はないと云われることも、それとして聞けば十分うなずけると思う。古来、本当に人間の肺腑にふれた文学作品で、た・・・ 宮本百合子 「人生の共感」
出典:青空文庫