・・・入院中流産なされ候御婦人は、いまは大方に快癒、鬱散のそとあるきも出来候との事、御安心下され度候趣、さて、ここに一昨夕、大夕立これあり、孫八老、其の砌某所墓地近くを通りかかり候折から、天地晦冥、雹の降ること凄まじく、且は電光の中に、清げなる婦・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・省作はおはまの手引きによって、一日おとよさんと某所に会し今までの関係を解決した。 お互いに心の底を話して見れば、いよいよ互いに敬愛の念がみなぎり返るのであるが、ままならぬ世のならいにそむき得ず、どうしても遠い他人にならねばならない。男同・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・古座谷はかつて最高学府に学び、上海にも遊び、筆硯を以って生活をしたこともある人物で、当時は土佐堀の某所でささやかな印刷業を営んでいた……。 まず無難な書き方だ。あとでどう辛辣に変ろうとも、また、そうでなくては「あばく」ことにもならないわ・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・ けれども、それではいつまでも何も仕事が出来ないので、某所に秘密の仕事部屋を設ける事にしたのである。それはどこにあるのか、家の者にも知らせていない。毎朝、九時頃、私は家の者に弁当を作らせ、それを持ってその仕事部屋に出勤する。さすがにその・・・ 太宰治 「朝」
・・・しかし、よく考えてみると、某年某月某日某所で行なわれた某の銅像除幕式を他のある日ある場所で行なわれた他の除幕式と明白に弁別しようとするときに最も著しき目標となるものは何であるかというと、かえって上記のごとき零細些末な現象が意外にも重大な役目・・・ 寺田寅彦 「ニュース映画と新聞記事」
・・・自分はこの朝、三重吉から例の件で某所まで来てくれと云う手紙を受取った。十時までにと云う依頼であるから、文鳥をそのままにしておいて出た。三重吉に逢って見ると例の件がいろいろ長くなって、いっしょに午飯を食う。いっしょに晩飯を食う。その上明日の会・・・ 夏目漱石 「文鳥」
出典:青空文庫