・・・ かく人間の理想を三大別したところで、我々、すなわち今日この席で講演の栄誉を有している私と、その講演を御聴き下さる諸君の理想は何であるかと云うと、云うまでもなく第二に属するものであります。情を働かして生活したい、知意を働かせたくないと云・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・して共同私立の体に変じ、その私立校の総理以下教員にいたるまでも、従前、官学校に従事したる者を用い、学事会を開きて学問の針路を指示するが如きは、はなはだ佳しといえども、その総理教員なる者は、以前は在官の栄誉を辱うしたる身分にして、にわかに私立・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・ 右条々のごとく、上下両等の士族は、権利を異にし、骨肉の縁を異にし、貧富を異にし、教育を異にし、理財活計の趣を異にし、風俗習慣を異にする者なれば、自からまたその栄誉の所在も異なり、利害の所関も異ならざるを得ず。栄誉利害を異にすれば、また・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・ もとよりこれがために栄誉を博したるにあらず、人情一般、西洋の事物を穢なく思う世の中に、この穢なき事を吟味するは洋学者に限るとして利用せられたるその趣は、皮細工に限りてえたに御用をこうむりたるの情に異ならざりしといえども、えたにても非人・・・ 福沢諭吉 「成学即身実業の説、学生諸氏に告ぐ」
・・・家の内には情を重んじて家族相互いに優しきを貴ぶのみにして、時として過誤失策もあり、または礼を欠くことあるもこれを咎めずといえども、戸外にあっては過誤も容易に許されず、まして無礼の如きは、他の栄誉を害するの不徳として、世間の譏りを免るべからず・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・すなわち国を立てまた政府を設る所以にして、すでに一国の名を成すときは人民はますますこれに固着して自他の分を明にし、他国他政府に対しては恰も痛痒相感ぜざるがごとくなるのみならず、陰陽表裏共に自家の利益栄誉を主張してほとんど至らざるところなく、・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・プロレタリア文化・文学運動の今後の正しい発展は、栄誉ある前衛、同志小林の業績のまじめな評価とその成果のボルシェヴィキ的摂取なしには全くあり得ないからである。 同志小林多喜二が、日本においてたぐいまれな国際的規模をもつ共産主義作家であった・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価に寄せて」
・・・ 彼等は、栄誉ある背景を顧みて、ほんとに安心しきっている。たとえ少数の商人が、巧智に長けた眼を窃かに働かして旅人の財布を軽めるにもせよ。「奈良」の人々は決して劇しい生活の準備などはしないでしょう。「奈良」は、鹿が路傍に遊ぶ所です。そ・・・ 宮本百合子 「「奈良」に遊びて」
・・・こんにちでは、ある個人なり、より大きい集団、あるいは民族の成功なり、栄誉なりが、単に成功とよびならわされている結果、栄誉とよばれて来ている結果からだけ見て尊敬されるという、中世的な評価の基準はかわって来た。その成功とよばれているもの、その栄・・・ 宮本百合子 「私の信条」
・・・二十一歳で博士になり、少佐の資格で、齢上の沢山な下僚を呼び捨てに手足のごとく使い、日本人として最高の栄誉を受けようとしている青年の挙動は、栖方を見遁して他に例のあったためしはない。それなら、これからゆく先の長い年月、栖方は今あるよりもただ下・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫