・・・かの女の浅はかな性質としては、もう、国府津に足を洗うのは――はたしてきょう、あすのことだか、どうだか分りもしないのに――大丈夫と思い込み、跡は野となれ、山となれ的に楽観していて、田島に対しもし未練がありとすれば、ただ行きがけの駄賃として二十・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・私は戦争の将来に就いて楽観している。 太宰治 「作家の手帖」
・・・ けれどもここに書かれてある言葉全部が、なんだか、楽観的な、この人たちの普段の気持とは離れて、ただ書いてみたというような感じがする。「本当の意味の」とか、「本来の」とかいう形容詞がたくさんあるけれど、「本当の」愛、「本当の」自覚、とは、・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・「ええ、お名前は、まえから母に朝夕、聞かされて、失礼ですが、ほんとうの兄のような気がして、いつかはお逢いできるだろう、と奇妙に楽観していたのです。へんですね、いつかは逢えると確信していたので、僕は、のんきでしたよ。僕さえ丈夫で生きていた・・・ 太宰治 「新樹の言葉」
・・・頭の悪い人は前途に霧がかかっているためにかえって楽観的である。そうして難関に出会っても存外どうにかしてそれを切り抜けて行く。どうにも抜けられない難関というのはきわめてまれだからである。 それで、研学の徒はあまり頭のいい先生にうっかり助言・・・ 寺田寅彦 「科学者とあたま」
・・・このまとまらない考察の一つの収穫は、今まで自分など机上で考えていたような楽観的な科学的災害防止可能論に対する一抹の懐疑である。この疑いを解くべきかぎはまだ見つからない。これについて読者の示教を仰ぐことができれば幸いである。・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・しかし考巧忠実な店員に接し掌をさすように求める品物に関する光明を授けられると悲観が楽観に早変わりをする。現代の日本がやはりたのもしく見えて来ると同時に眼前の書籍を知らぬ小店員を気の毒に思うのである。 ドイツのある書店に或る書物を注文した・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・だから日本の文壇は前途多望、大いに楽観すべき現象に充ちていると思います。 そこで今云った通り新参の私のあとから、すでに四五人の新進作家が出るくらいだから、そのあとからもまた出て来るに違ない。現に出つつあるんでしょう。また未来に出ようとし・・・ 夏目漱石 「文壇の趨勢」
・・・と作者は楽観している。 師範卒業生佐田の安直ぶりが、階級的発展の端緒としての意味をもつ未熟さ、薄弱さとして高みから扱われているのではなく、作者須井自身にとっても弱い一点であることは、「幼き合唱」のところどころの文章にうかがわれる。大体作・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ 極く楽観的なものと意志の強い立志伝的なものをまぜてそれ等のものが二十ある中に涙の出るものは六七あればいいんです。 悲しみと云うものは世のすべてのものより勝って微妙なものですけれ共少女小説のいままでのものに表われて居るのは必して考え・・・ 宮本百合子 「現今の少女小説について」
出典:青空文庫