・・・感情にさまざまな点から新しい興味を喚起されたし、文化の程度の低い民族あるいは社会層の者ほど原色配合を好み、高級となり洗練された人間ほど微妙な間色の配合、陰翳を味わう能力を増すといわれているありきたりな概括にまで思い及んだのであるが、今度は立・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
去年の暮、福田恆存は、一九四九年を通観して、「知識人の敗北」の年と概括をした。これは、評論家としての氏にとって、きわめて意味のふかい一つの刻みめを印した発言となった。なぜならば、一九四九年の日本の現実は、混乱しながらもそこ・・・ 宮本百合子 「五月のことば」
・・・少くともわたしは、どこかくさびのぬけた概括が多かったと感じる。そこにあるはずの問題がちゃんとおもてにとり出して、うけるだけの扱いをうけていないように思える。去年の花床として、見わたしておもてに見える高低だけ言われている土のなかには、その花が・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ 去年の暮、文学の分野に関しては、ともかく或る概括が諸家によってされていた。その前年からルポルタージュとか生産文学とか農民文学とか激しく動揺していた現代文学の雰囲気も、十四年に入ってからはそれぞれの歩みのなかでおのずから一応の落付きを示・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・に必要な条件に制約が加わるという事実は、学問として確立する以前に、早今日専門家達を分裂、対立させているばかりでなく、日本人一般が、実際には、日本文学古典についてまだ何もまとまって正当に見通された知識、概括を身につけ得ていないということを結果・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・これまで日本の知識人は外国かぶれが多すぎたという概括的な判断が一部にあって、ああ云うまわりくどいような文章は日本の文章の系統ではないという反撥があって、そこで、日本らしい、はっきりした、小学校さえ出ていれば誰にでもわかる文章というようなこと・・・ 宮本百合子 「今日の文章」
・・・木々高太郎氏の作品では、殺すという行動を機械的に殺しの操作それ自体に切りはなしてしまって、比叡子の心持を、合理性そのものの解釈においてさえ歪曲されている合理主義で批判している。概括して二つのいずれが、よりリアリスティックな誠意をもった現実把・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・転向文学という一時的な概括で云われたこれらの作品の特徴は、知識人としての作者たちが時代の中に経た生活と思想経験の歴史的な価値と意味とを我から抹殺して、一つの理想に対して脆く敗れた自身の懺悔と哀傷とを懺悔風に描いたところにある。日本の文化の歴・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ その問題は概括すれば「いかに生くべきか」に関している。自分の性質と要求との間の焦燥。自己を真実に活かすための種々の葛藤。自己の価値と運命とについての信念、情熱、不安。個性の最上位を信じながら社会的勢力との妥協を全然捨離し得ない苦悶。愛・・・ 和辻哲郎 「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」
・・・一三 私はきわめて概括的な、そのくせバラバラになった観察を書いた。もともと先生の芸術について適切な評論をなし得ようとは思っていなかったから、これくらいで筆を擱きたい。 先生の芸術についてはなお論ずべき事が多い。私は先生が・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫