・・・もっともわるい意味での女らしさの一つであって、外面のどんな近代様式にかかわらず、そのような生きるポーズは昔の時代の女が生きた低さより自覚を伴っているだけに本質はさらに低いものであるということを率直に認め、それを悲しむ真の女の心をもっているで・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・文学の社会性の課題がとりあげられていた。文学様式としては、第一次大戦後のドイツにおこった表現派、ダダイズムが流行的であった。 無産派文学の運動――すべての国で人民の多数を占める勤労階級の生活とその感情を表現する文学が、従来のブルジョア階・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第三巻)」
・・・ 後年光琳の流れのなかで定式のようになった松の翠の笠のような形に重ねられる手法、画面の中央を悠々とうねり流れている厚い白い水の曲折、鮮やかな緑青で、全く様式化されながらどっしりと、とどこおるもののない量感で据えられた山の姿、それらは、宗・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・従って、箇性の差異に連れて起る箇々の生活内容及び様式の相異を理解し、その価値を正当に批判すべきことは、もう公理なのだとも思われる。一方から云えば、解り切った事だと云えるだろう。けれども、自分は、そう雑作なく解り切った事だとは、自分に対して云・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・いかにも立派な邸ではあるが、なんとなく様式離れのした、趣味の無い、そして陰気な構造のように感ぜられる。番町の阿久沢とか云う家に似ている。一歩を進めて言えば、古風な人には、西遊記の怪物の住みそうな家とも見え、現代的な人には、マアテルリンクの戯・・・ 森鴎外 「鼠坂」
・・・彼らはその理想さえ主張出来得れば、曾て犯した唯心論的文学の古き様式をさえも、唯々諾々として受け入れているではないか。そこで、彼らは、文学の圏内に於ては、ただ単なる理想主義文学と何ら変る所はない。 それで果して文学的活動は正当さを主張・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
・・・アフリカの民族は快活で、多弁で、楽天的であるが、しかしその精神的な表現の様式は、今日も昔も同じくまじめで厳粛である。この様式もいつの時かに始まり、そうして後に固定したものに相違ない。が、その謎めいて古い起源が我々には魔力的に感ぜられるのであ・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
・・・時にはこの目的のために、すでに古い昔に様式化された山や樹の描き方を、巧妙に利用しようとさえもする。これらの選択や利用が、すべて画家のある想念に――主としていわゆる詩的な美しい場面を根拠とするある幻想に――支配せられていることは、何人も否み得・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・ 目先の変更を必要としないほどに落ちついた大家は、自己の様式の内で何らか「新しい試み」をやる。主として画題選択の斬新であるが、時には珍しい形象の取り合わせ、あるいは人の意表にいづるごとき新しい図取りを試みる。しかしこれらの画家を動かして・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
・・・周文は応永ごろの人であるが、彼の墨絵はこの時代の絵画の様式を決定したと言ってもよいであろう。そうしてこの墨絵もまた、日本文化の一つの代表的な産物として、世界に提供し得られるものである。もっとも、絵画の点では、雪舟が応仁のころにもうシナから帰・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫