・・・東京へ帰ったら、一ついい模型をさがしてあげましょう。」といいました。 信吉は、埴輪ときいて、いつか雑誌に載っていた、白い馬に乗った紅い人形を思い出しました。それは、思ってもなつかしい、胸のおどるものでした。しかし、彼のいったのは自分のた・・・ 小川未明 「銀河の下の町」
・・・手や足は、靴と共にかたく、大理石の模型のように白く凍っていた。 日本軍が捕虜を殺したのではない。しかし、暴虐に対する住民の憎悪は、白衛軍を助けている侵略的な日本軍に向って注ぎかえされた。栗本は、自分達兵卒のやらされていることを考えた。そ・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・皮膚に寄生する虫の標本が、蟹くらいの大きさに模型されて、ずらりと棚に並んで、飾られてあって、ばか! と大声で叫んで棍棒もって滅茶苦茶に粉砕したい気持でございました。それから三日も、私は寝ぐるしく、なんだか痒く、ごはんもおいしくございませんで・・・ 太宰治 「皮膚と心」
・・・捨てられた新聞紙が、風に吹かれて、広い道路の上を模型の軍艦のように、素早くちょろちょろ走っていました。道路は、川のように広いのです。電車のレエルが無いから、なおの事、白くだだっ広く見えるのでしょう。万代橋も渡りました。信濃川の河口です。別段・・・ 太宰治 「みみずく通信」
・・・ブリキで作った小さな模型もあったはずである。この池の水の運動についてもまだ調べれば調べる事がいくらでも残っている。池の測深もその時やった結果が紀要に出ている。案外深い池である。 自分の知っているだけの文献を数えてみても、これだけあるのだ・・・ 寺田寅彦 「池」
・・・まず鴨居からつるした障子や木戸の模型がおもしろかった。次におもしろいと思ったのは、舞台面の仮想的の床がずっと高くなり、天井がずっと低くなって天地が圧縮され、従って縮小された道具とその前に動く人形との尺度の比例がちょうど適当な比例になっている・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
・・・胎児の蝋細工模型でも、手術中に脈搏が絶えたりするのでも、少なくも感じの上では「死の舞踊」と同じ感じのもののように思われる。終局の場面でも、人生の航路に波が高くて、舳部に砕ける潮の飛沫の中にすべての未来がフェードアウトする。伴奏音楽も唱歌も、・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・ただしこの場合における実験室は小説作者の頭脳であり、試験される対象もまた実物ではなくて、大学生や少女や探偵やの抽象された模型である。こういう模型は万人の頭の中にいるのであるが、すぐれた作者の場合にのみ、それが現実の対象とほぼ同じ役目をつとめ・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・例えば火山の噴火を示すのでも本当に子供だましの模型や如何わしい地殻断面図の行列であって、一つも現象の科学的な要点に触れていなかった。また例えば子供の誤って呑込んだおはじきが消化器系を通過する径路を示すのを見たが、これなどでも消化器というもの・・・ 寺田寅彦 「教育映画について」
・・・古い話ではあるがティコ・ブラーヘの天体観測の結果は、幾度か非科学的な占筮の用にも供せられたのであろうが、結局は名工ケプレルの手によって整然たる太陽系の模型の製作に使われた。ニュートンはまたこのケプレルの作ったものを素材として、さらに偉大な彼・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
出典:青空文庫