・・・ しかし亦権力も畢竟はパテントを得た暴力である。我我人間を支配する為にも、暴力は常に必要なのかも知れない。或は又必要ではないのかも知れない。 「人間らしさ」 わたしは不幸にも「人間らしさ」に礼拝する勇気は持っていない・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・ただわたしは殺す時に、腰の太刀を使うのですが、あなた方は太刀は使わない、ただ権力で殺す、金で殺す、どうかするとおためごかしの言葉だけでも殺すでしょう。なるほど血は流れない、男は立派に生きている、――しかしそれでも殺したのです。罪の深さを考え・・・ 芥川竜之介 「藪の中」
・・・火星じゃ君、俳優が国王よりも権力があって、芝居が初まると国民が一人残らず見物しなけやならん憲法があるのだから、それはそれは非常な大入だよ、そんな大仕掛な芝居だから、準備にばかりも十カ月かかるそうだ』『お産をすると同じだね』『その俳優・・・ 石川啄木 「火星の芝居」
・・・そして、輓近一部の日本人によって起されたところの自然主義の運動なるものは、旧道徳、旧思想、旧習慣のすべてに対して反抗を試みたと全く同じ理由に於て、この国家という既定の権力に対しても、その懐疑の鉾尖を向けねばならぬ性質のものであった。然し我々・・・ 石川啄木 「性急な思想」
・・・ 五 神巫たちは、数々、顕霊を示し、幽冥を通じて、俗人を驚かし、郷土に一種の権力をさえ把持すること、今も昔に、そんなにかわりなく、奥羽地方は、特に多い、と聞く。 むかし、秋田何代かの太守が郊外に逍遥した。小や・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・社会の公民としては何等の位置も権力も無かったのである。渠等が幅を利かすは本屋や遊里や一つ仲間の遊民に対する場合だけであって、社会的には袋物屋さん下駄屋さん差配さんたるより外仕方が無かったのである。 斯ういう生活に能く熟している渠等文人は・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・ 二葉亭の頭は根が治国平天下の治者思想で叩き上げられ、一度は軍人をも志願した位だから、ヒューマニチーの福音を説きつつもなお権力の信仰を把持して、“Might is right”の信条を忘れなかった。貴族や富豪に虐げられる下層階級者に同情・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・ これ、自からの信仰に生きずして、権力に、指導されるからではあるまいか。 小川未明 「自由なる空想」
・・・何者の権力を以てしても、この自由を束縛することができない。 私は、童話の世界を考えた時に、汚濁の世界を忘れます。童話の創作熱に魂の燃えた時に、はじめて、私の眼は、無窮に、澄んで青い空の色を瞳に映して、恍惚たることを得るのであります。・・・ 小川未明 「『小さな草と太陽』序」
・・・東条英機のような人間が天皇を脅迫するくらいの権力を持ったり、人民を苦しめるだけの効果しかない下手糞な金融非常処置をするような政府が未だに存在していたり、近年はかえすがえすも取り返しのつかぬような痛憤やる方ないことのみが多いが武田さんの死もま・・・ 織田作之助 「武田麟太郎追悼」
出典:青空文庫