・・・ ロイドめがねを真円に、運転手は生真面目で、「多分の料金をお支払いの上、お客様がですな、一人で買切っておいでになりましても、途中、その同乗を求むるものをたって謝絶いたしますと、独占的ブルジョアの横暴ででもありますかのように、階級意識を・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・政治家の手腕器度を称揚する事はあっても革命党に対してはトンと同感が稀く、渠らは空想にばかり俘われて夢遊病的に行動する駄々ッ子のようなものだから、時々は灸を据えてやらんと取締りにならぬとまで、官憲の非違横暴を認めつつもとかくに官憲の肩を持つ看・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・それ故に、僅かに、神の与えた聡明と歯牙に頼るより他は、何等の武器をも有しない、すべての動物に対して、人間の横暴は極るのであります。 斯の如きことを恥じざるに至らしめた、利益を中心とする文化から解放させなければならぬ。昔の人間は、常に天を・・・ 小川未明 「天を怖れよ」
・・・敗戦、戦災、失業、道義心の頽廃、軍閥の横暴、政治の無能。すべて当然のことであり、誰が考えても食糧の三合配給が先決問題であるという結論に達する。三歳の童子もよくこれを知っているといいたいところである。円い玉子はこのように切るべきだと、地球が円・・・ 織田作之助 「郷愁」
・・・荘園の争奪と、地頭の横暴とが最も顕著な時代相の徴候であった。 日蓮の父祖がすでに義しくして北条氏の奸譎のために貶せられて零落したものであった。資性正大にして健剛な日蓮の濁りなき年少の心には、この事実は深き疑団とならずにはいなかったろう。・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・二、横暴なり。破壊的なり。三、自家広告が上手で、自分のことばかり言っている。四、臆病なり。弱い男なり。意気揚らず。五、不誠実。悪巧をする。狡猾であり、詭計を以て掠め取るということ。六、彼の病気。癲癇ではないか。(肉体に一・・・ 太宰治 「パウロの混乱」
・・・例えば美術や音楽の方面においていわゆる官学派の民間派に対する圧迫といったようなことについて、具体的の実例をあげていわゆる官僚的元老の横暴を語るのであったが、それがただ冷静な客観的の噂話でなくて、かなり興奮した主観的な憤懣を流出させるのであっ・・・ 寺田寅彦 「子規の追憶」
・・・恐ろしいほど大きな茶色をした親ねずみは、あたかも知恵の足りない人間を愚弄するように自由な横暴な挙動をほしいままにしていた。 二 春から夏に移るころであったかと思う。ある日座敷の縁の下でのら猫が子を産んでいるという・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・ ファシズムというと、わたしたちはすぐ戦争中のままの形で超国家的な大川周明の理論や、憲兵の横暴や、軍部、検事局その他人民を抑圧した天皇制の機構全体を頭にうかべて、なんとなしその全体に体当りで抵抗するのがファシズムへの抵抗という感じをもっ・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ジイドは、この時ゴム栽培特許権所有者組合の横暴と一年間闘い、商務大臣の偽の誓約に憤った。「人間こそ先ず建直されねばならぬ」だがそれはどんな道によってであろうか。ジイドの考えによれば「人の最も個性的な状態にいることは、なによりも優れた公益をは・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
出典:青空文庫