・・・対象の含んでいる種々の複雑な価値についてよく考え理解した上で、そこに諷刺のおさえがたい横溢を表現してゆくという製作の態度よりは、寧ろ小熊秀雄の才分の面白さ、という周囲の評価の自覚において諷刺の対象への芸術家としての歴史的な責任という点は些か・・・ 宮本百合子 「旭川から」
・・・兵士達云々と云っている林氏のロマンチシズムの横溢は、岡本かの子氏が昨今うたわれる和歌の或るものとともに、恐らく「神の子」たちの現実的な感情にとってはすぐ何のことか会得しかねる種類の修辞であろうと思われる。 尾崎士郎氏は名調子の感傷ととも・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・強請して小規模で分散的な副業に止めておこうとする理由は「集団作業の心理状態には被傭人の気持が多く、共同作業場あるいは家庭工業には農業精神が横溢している」とされているのである。 これまでも、日本の女は、実に労を惜しまず、雑多な歴史の荷・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・―― 母性は非常に本源的なものであるが、それだけに無差別な横溢はしないものであると感じられる。しんから打込んだ男の子こそ生みたいのが母性の永遠の欲求である。過去の日本における結婚が女の生涯を縛りつけた重みの中には、生まされた子を育てると・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・あの笑いの瞬間に横溢する感情表現は、阿蘭の全生涯の歴史が別に書かれて来ているのでなければ阿蘭の体と顔とに現れ得ない美である。俳優としてよりむしろライナーの富、華麗、社交性、女としての日常性があすこで一閃するが如き強烈な印象を与えるのである。・・・ 宮本百合子 「映画の語る現実」
・・・だの美辞は横溢しているくせに、級の幹事が、ここで女教師代用で、髪形のことや何かこせこせした型をおしつけた。その頃の目白は、大学という名ばかりで、学生らしい健全な集団性もなく、さりとて大学らしい個性尊重もされていなかった。 学生というはっ・・・ 宮本百合子 「女の学校」
・・・楽しいけれども苦しい、たえがたい刻々があるけれどもまたうち勝ちがたい確信に支えられているという人生の感情が横溢している。 三 圧迫下のパリ時代 一八四〇年代のパリは、歴史的な革命高揚の時期であった。リオンの絹織・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・自動車という文明の乗物できまった村街道を進むのではあるが、外の自然を見ていると、空気に、日光に、原始的な、神代めいた朗かさ、自由さ、豊富さが横溢して指の先へまで伝わって来るのだ。 青島も、確に珍しい見物の一つではあろう。太平洋に面し・・・ 宮本百合子 「九州の東海岸」
・・・女性は母であるという事実が一人一人の女性にしんから実感されるならば、女性がこの社会に働きかけてゆく活溌さは、もっともっと横溢的であっていいと思う。 きょうの若い女性たちが、明日は立派な乳房とつよい腕と年毎に智慧の深まるしっかり優しいまな・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・幸福というものが、案外にも活気横溢したもので、たとえて見れば船の舳が濤をしのいで前進してゆく、そのときの困難ではあるが快さに似たものだといったら昼寝の仔猫のような姿を幸福に与えようとしている人たちは非常にびっくりするだろうか。 人生に何・・・ 宮本百合子 「幸福の感覚」
出典:青空文庫