・・・小説もそのように生活のディテールと活力の横溢したものにしたいと思います。「乳房」を書いているから、きっとよいと思う。あれからもう育ってきているから。まだ、だがプランの詳細は出来ていない。毎日もうそのことに、心がつかまえられています。 林・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 私へ下さる通信の書籍の名で占められている部分、また非常に要約された文章、またはあるときは全く言葉としては書かれていないことがあっても、私に感じられているものが、父へのお手紙の中には横溢されて居るのを感じました。くりかえしくりかえしよみ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・重々しい、秒のすぐるのさえ感じられるような日盛りの熱と光との横溢の下で、樹々の緑葉の豊富な燦きかたと云ったら! どんな純粋な油絵具も、その緑玉色、金色は真似られない、実に燃ゆる自然だ。うっとり見ていると肉体がいつの間にか消え失せ、自分まで燃・・・ 宮本百合子 「この夏」
・・・の活気横溢する歌をうたう、ゴルバートフ。一九一七年以後に成長して、社会主義建設の中で青年となった新しい気質のソヴェト作家が、あらゆる人々とともにナチスに侵略された自分たちの建設祖国を、どんなに愛し、護り、そのために献身したか、まざまざと伝え・・・ 宮本百合子 「ゴルバートフ「降伏なき民」」
・・・―― 文学における日本的なるものの主観的な横溢の流行は、フランスから帰朝してその第一作「厨房日記」を発表した横光氏の作品が拍車となって作用した。常にN・R・Fのかげを負うて来ているこの作者が、「紋章」では日本の精神の緊張、高邁さの一典型・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ファブルなどの時代では、文学に於ても十分問題である擬人法のロマンチックな色彩の横溢が、文学的であるとして考えられていたらしい。冷たい、理知だけの操作でない、対象との人間らしい共感においての観察という点の強調が、虫に頬かぶりをさせたり、草叢の・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・ 長篇のわずか半ばで加えられたこのように横溢的な評言から、最も有効に自己をコントロールし終らせることは、創作についてなみなみならぬ鍛錬を重ねた作家にして初めてなし得るところであろう。 社会主義的リアリズムの立場に立って性格、心理を描・・・ 宮本百合子 「作家への課題」
・・・を書かしめたアルジェリイにおける生産力の横溢と転身の自覚。彼に「パリュウド」をかかしめた、パリ帰来後の孤愁と象徴派との別離。結婚生活の重荷が反映している「背徳者」、それから六年間も間をとんで執筆された「狭き門」、三十歳のジイドの苦悩は、日夜・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・相手にそれだけ力と愛とが横溢していない時には、勢い愚痴は相手を弱め陰気にします。我々から愛を求めている者に対して我々の愚痴を聞かせるのはあまりに心なき業だと思います。 私たちは未来を知らない。未来に希望をかける事が不都合なら未来に失望す・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
・・・彼らの内には、生を高めようとする熱欲も、高まった生の沸騰も、力の横溢もなんにもなく、ただ創作しようとする欲望と熱心だけがある、内部の充溢を投与しようとするのでなく、ただ投与という行為だけに執着しているのである。従って彼らの表現欲は内生が沈滞・・・ 和辻哲郎 「創作の心理について」
出典:青空文庫