・・・ 公然と条理をもって、しかも人間的機智と明察をもって、どこまでもユーモラスに、だが誰憚らぬ正気な状態において諷刺文学がありうる処と時代に、スカートの中を下からのぞくようなゲラゲラ笑いが、笑う人間の心を晴やかにするとは思われない。自分たち・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・謡は謡ですんで、内田さん、芥川さん、互に恐ろしくテムポの速い、謂わば河童的――機智、学識、出鱈目――会話をされた。どんな題目だったかちっとも覚えていない。感心したり、同時にこの頃の芥川さんは、ああ話す好みなのかと思って眺めた感じが残っていま・・・ 宮本百合子 「田端の坂」
・・・ この毅然とした数行には、この作家が断定しにくい問題に対したときに示す機智・燕がえしの修辞法は一つもない。真正面から、歴史の現実は、かくある、という事実を憚らず語っている。これは文学の言葉である。同時に政治の言葉でもある。なぜなら、政治・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
・・・彼女の剛毅、機智、大衆から与えられている輿論の支持を全面的に用いて、ナイチンゲールの官僚主義とのたたかいはつづけられていたが、シドニー・ハーバートが病いに倒れるとともに政治的な敗北が、役所方面での彼女の計画をほとんど旧態に戻してしまった。苦・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・おだやかにまとめる、それが女の機智と手腕とされているのだ。けれども、放蕩な良人をもつ妻が、敏捷に良人の気分を察して、今夜は芸者と遊びたいと思っていると見てとれば丸髷に結って純日本風の化粧をする。きょうはバアを恋しがっていると思えばいち早く洋・・・ 宮本百合子 「三つの「女大学」」
・・・ 私たちは、そんな辛苦はつまらないと五百円の収入の男を夫としようとするのではなく、その辛苦のつまらなさのも一つ先の社会の波までも見透して、機智とユーモアをも失わず自分たちの幸福を守ってゆこうとしているのだと思う。 いつか婦人の生活と・・・ 宮本百合子 「山の彼方は」
・・・ジャーシャは「快活で、率直で、機智にとみ、人生に対して楽天的で、しかも独立心にもゆる魅力ある近代女性」として読者に愛せられる娘である。が、作者は、ジャーシャを孤児の境遇から幸福で富裕な近代若夫人に育て上げるために「あしながおじさん」というほ・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
・・・のしきたりが女の実力を育ててゆく習慣の上にその位おくれている歴史の反映として、自身の内部にもおくれたものは持っているのだから、職業は職業として理解して確りそこで腰を据えて新領野をひろげるように独創性や機智を発揮しようという気にはならないのが・・・ 宮本百合子 「若い娘の倫理」
・・・彼らが尚ぶのは酔歓であった、狂気であった、機智であった、露骨であった。すべて陽気と名の付かないものは、彼らの心を喜ばせるに足りなかった。彼らは胸に沁み入る静かな愛の代わりに、感覚を揺り動かす騒々しい情調を欲した。こうして私はただひとり取り残・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫