・・・ その前に、渠は母の実家の檀那寺なる、この辺の寺に墓詣した。 俗に赤門寺と云う。……門も朱塗だし、金剛神を安置した右左の像が丹であるから、いずれにも通じて呼ぶのであろう。住職も智識の聞えがあって、寺は名高い。 仁王門の柱に、・・・ 泉鏡花 「夫人利生記」
・・・――夜のあけ方には、派出所の巡査、檀那寺の和尚まで立ち会わせるという狂い方でございまして。学士先生の若夫人と色男の画師さんは、こうなると、緋鹿子の扱帯も藁すべで、彩色をした海鼠のように、雪にしらけて、ぐったりとなったのでございます。 男・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・ 山門を仰いで見る、処々、壊え崩れて、草も尾花もむら生えの高い磴を登りかかった、お米の実家の檀那寺――仙晶寺というのである。が、燈籠寺といった方がこの大城下によく通る。 去ぬる……いやいや、いつの年も、盂蘭盆に墓地へ燈籠を供えて、心・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
出典:青空文庫