・・・ そんなことを話し合って監房の金網から左手の欄間を見上げると、欅は若葉で底光る梅雨空に重く、緑色を垂らしている。―― ズーッと入って行って横顔を見、自分はおやと目を瞠った。いつかの地下鉄の娘さんの父親がやって来ている。「そう・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・そのあおり、東の表の欄間はすっかり形つなぎの硝子。こっちからなかなか風が入る。 ○線路が見える。 黄色い羽形の上についた信号燈の色 赤、青○こわれた電燈カサが床の間の隅っこにいつからか置いてある。○大雨 急行が・・・ 宮本百合子 「Sketches for details Shima」
・・・トインビーの等身大肖像画が壁にかかり大きなロンドン市紋章が樫の渋い腰羽目に向ってきわめて英国風にエナメルの紅と金を輝やかせつつ欄間にかかっている。タイムス。デイリー・メイル。デイリー・ミラア。新聞の散った小テーブルがゴシック窓の前にあって―・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫