・・・ 同志貴司山治が『時事』に書いた文芸時評中にも、この作品を形象化の欠如という点からだけ批判し、「蟹工船」以後の発展、特に去年四月以後同志小林が行った本質的飛躍については触れていない。 同志小林が最近十ヵ月間の実践によって理論家と・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価によせて」
・・・そのために、それらの若い人々は、勤め先ではここは只月給をとる場所と思い、文学の仕事に向うと、その困難に対して、こんな日頃の生活だからと文学的なるものの欠如を歎く事情におかれ、つまりは自分の生活全般に自信のおき場を失い、人生に向って声をかける・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
・・・内の理論的対立は、この点でも幹部の自己批判の欠如を示した。頭と尻尾に二つ頭をもった蛇では、どっちへ動くこともできない。腐るだけである。そこで、今度の左翼十一名の脱退となった。 一九二七年の末、労農芸術連盟から「前衛」が分裂し、のち「プロ・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・ 人それぞれに、自分の恋愛生活、結婚生活に対する何かの不安、疑問、確信の欠如があるから、何かその間に均衡を見つけ出せるような理窟、考え方、或は単なる処しかたでもないかという欲求が、恋愛論の炉へ旺に薪をさし加えるのであろう。一方には、知性・・・ 宮本百合子 「もう少しの親切を」
・・・感激熱中こそ乏しくはありませんでしたが、当時の生活には著しく、精神的訓練が欠如していました。読書を愛するとか、思索を好むとか、感受性の鋭いとか云うのは皆準備的要件で、重大なのは、どこまでそれ等のおもりに依って自己に沈潜し得るかということです・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
・・・それは西洋画家が普通の事としてやっている対象全体への有機的な注意の欠如である。 おそらくこの画は全体の構図と個々の麦の忠実な写生とからできたものであろう。従ってあの数多い麦は、かなり機械的な繰り返しをもって、ただ画面上の注意のみによって・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
・・・それを特に何事かの欠如に帰して考えようとするのは、偶像礼拝の心理をあまりにも軽視するからである。かの時代においては宗教家は何らかの程度において必ず芸術家でなければならなかった。それは当時の宗教の内奥から出た必然であった。そうしてそこに偶像礼・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
出典:青空文庫