・・・ところが、この資本主義の社会の社会悪と矛盾、苦悩惨酷があまりひどいから、わたしたちの心には社会的な自覚とともに、正義感や疑問が起って、次第に階級社会の過去の発展の歴史と未来の展望に対して無関心でいられなくなって来たのです。そこから出発して共・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・』 かれこれするうちに辻は次第に人が散って、日中の鐘が鳴ると、遠くから来た者はみな旅宿に入ってしまった。 シュールダンの大広間は中食の人々でいっぱいである。それと同様、広い庭先は種々雑多の車が入り乱れている――大八車、がたくり馬車、・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・ この時までに五六人の同僚が次第に出て来て、いつか机が皆塞がっていた。八時の鐸が鳴って暫くすると、課長が出た。 木村は課長がまだ腰を掛けないうちに、赤札の附いた書類を持って行って、少し隔たった処に立って、課長のゆっくり書類を por・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・ ツァウォツキイはだんだん光線に慣れて来て、自分の体の中が次第に浄くなるように感じた。心の臓も浄くなったので、いろんな事を思い出して、そして生れたと云うばかりで、男の子だか女の子だか知らない子を、どうかして見たいものだと思った。 浄・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・鍛冶屋の嫁は次第に鉄の産地を知る。三郎が武術に骨を折るありさまを朝夕見ているのみか、乱世の常とて大抵の者が武芸を収める常習になっているので忍藻も自然太刀や薙刀のことに手を出して来ると、従って挙動も幾分か雄々しくなった。手首の太いのや眼光のす・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・殊にそのため部下の諸将と争わなければならなかったこの夜の会議の終局を思うと、彼は腹立たしい淋しさの中で次第にルイザが不快に重苦しくなって来た。そうして、彼の胸底からは古いジョセフィヌの愛がちらちらと光を上げた。彼はこの夜、そのまま皇后ルイザ・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・明るい所から暗い所に這入ったので、目の慣れるまではなんにも見えなかった。次第に向側にある、停車場の出口の方へ行く扉が見えて来る。それから、背中にでこぼこのある獣のようなものが見えて来る。それは旅人が荷物を一ぱい載せて置いた卓である。最後にフ・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
出典:青空文庫