・・・もっと自由な立場で、極く初等的な万人むきの解析概論の出ることを、切に、希望している次第であります。」めちゃめちゃである。これで末弟の物語は、終ったのである。 座が少し白けたほどである。どうにも、話の、つぎほが無かった。皆、まじめになって・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・そこでチルナウエルは次第に小さい銀行員たることを忘れて、次第に昔話の魔法で化された王子になりすました。 珈琲店では新しい話の種がたっぷり出来た。伯爵中尉の気まぐれも非常であるが、小さい銀行員の僥倖も非常である。あんな結構な旅行を、何もあ・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・従って中等学校では生徒がある特殊な専門に入るだけの素養が出来次第その学科に対するだけの免状をやる事にすればいい。前に中学卒業試験全廃を唱えたのは、つまりこうして高等教育の関門を打破する意味と思われる。尤も彼も全然あらゆる能力験定をやめるとい・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・田崎が事の次第を聞付けて父に密告したので、お悦は可哀そうに、馬鹿をするにも程があるとて、厳しいお小言を頂戴した始末。私の乳母は母上と相談して、当らず触らず、出入りの魚屋「いろは」から犬を貰って飼い、猶時々は油揚をば、崖の熊笹の中へ捨てて置い・・・ 永井荷風 「狐」
・・・元来人間の命とか生とか称するものは解釈次第でいろいろな意味にもなりまたむずかしくもなりますが要するに前申したごとく活力の示現とか進行とか持続とか評するよりほかに致し方のない者である以上、この活力が外界の刺戟に対してどう反応するかという点を細・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・聖旨も此にあるかと恐察し奉る次第である。十八世紀的思想に基く共産的世界主義も、此の原理に於て解消せられなければならない。 今日の世界大戦の課題が右の如きものであり、世界新秩序の原理が右の如きものであるとするならば、東亜共栄圏の原理も自ら・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・とした次第である。 しかし、ドンコ釣りを躊躇させる一時期がある。ドンコほど夫婦愛が深く、また、父性愛の強いものはない。産卵期になるといつもアベックだが、卵を産んでしまうと、雌はどこかへ行ってしまう。あとを守るのは雄だ。卵のところを離れず・・・ 火野葦平 「ゲテ魚好き」
・・・幼少の時より家庭の教訓に教えられ又世間一般の習慣に圧制せられて次第に萎縮し、男子の不品行を咎むるは嫉妬なり、嫉妬は婦人の慎しむべき悪徳なり、之を口に発し色に現わすも恥辱なりと信じて、却て他の狂乱を許して次第に増長せしむるが故なり。畢竟するに・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・成程、相等しき物は同一なりは尤もの次第で、他に考えようもないが、併し「何故」という観念が出て来ると、私はそれに依頼されなくなる。心理学上の識覚について云って見ても、識覚に上らぬ働きが幾らあるか知れぬ。反射的動作なぞは其卑近の一例で、斯んな心・・・ 二葉亭四迷 「私は懐疑派だ」
・・・『万葉』は主として主観的歌想を述べたるものにして客観的歌想は極めて少かりしが、『古今』以後、客観的歌想の歌、次第にその数を増加するの傾向を見る。 主観的歌想の中にて理屈めきたるはその品卑しく趣味薄くして取るに足らず。『古今』以後の歌には・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
出典:青空文庫