・・・ その頃は既に鹿鳴館の欧化時代を過ぎていたが、欧化の余波は当時の新らしい女の運動を惹起した。沼南は当時の政界の新人の領袖として名声藉甚し、キリスト教界の名士としてもまた儕輩に推されていたゆえ、主としてキリスト教側から起された目覚めた女の・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・当時の欧化熱の急先鋒たる公伊藤、侯井上はその頃マダ壮齢の男盛りだったから、啻だ国家のための政策ばかりでもなくて、男女の因襲の垣を撤した欧俗社交がテンと面白くて堪らなかったのだろう。搗てて加えて渠らは貴族という条、マダ出来立ての成上りであった・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・ これは明治維新以来の欧化趨勢の一般的な時潮の中にあったものであり、自覚的には、思想的・文化的水準の低かった日本の学者や、思想家としてはやむをえない状態でもあったのである。 けれどもいつまでもそうあるべきではなく、人生、思想、芸文、・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・ もしこれをしも軽んじ、もしくは不感性の娘があるとしたら、それはその化粧法の如く心まで欧化してしまった異邦人の娘である。もう祖国の娘ではない。国土から咲いた花ではない。 どこまでも日本の娘であれ。万葉時代の娘のような色濃き、深き、い・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・その文学精神が欧化したと云われる日本の純文学は一つのN・R・Fによってどれ程さわがされなければならなかったろう。文学における日本の精神というとき、その専門家である国文学者は俗流孫引きの牽強に対して、常識の抱く疑問を明かにする文化的実力は有し・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・等の筆者達は、福沢諭吉を新時代の大選手として、急テンポに欧化し、資本主義化しなければならなかった当時の日本の社会感情の先達となった。自由民権の云われた時代の作物が、今日なお面白く、或る気魄によって読ませるのは、筆者の全生活がかかる社会的現実・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・「かかる官府の豹変は平安盛時への復帰とも解釈されるし、また政府の思想的一角が今日、俄かに欧化した」とも云い得るかのようであるが、実際には帝国芸術院が出来ると一緒に忽ち養老院、廃兵院という下馬評が常識のために根をすえてしまった。「新日本文化の・・・ 宮本百合子 「矛盾の一形態としての諸文化組織」
出典:青空文庫