・・・手のこんだ日本の民主化の欺瞞の一例である。文化の上で愚民政策をとり、民族の自立的な文化能力をうちこわしつつある人が審査する教員の資格は、どこにめやすがおかれるものだろう。最近民主主義教育者協会に加えられた紛糾の折、東宝社長が都の当局者に教員・・・ 宮本百合子 「三年たった今日」
・・・ 同じ歴史のうちに生きながら、共産主義者の負う運命は、さながら自身の良心の平安と切りはなし得るものであるかのように装う、最も陳腐な自己欺瞞と便宜主義が、日本の現代文学の精神の中にある。この天皇制の尾骨のゆえに、一九四〇年ごろのファシズム・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・実際の可能を作って行かなければ、教育の民主化という問題は甚しい欺瞞となる。 すべての人は働くことができる。そうであるならば最低限の生活の安定がその勤労によって保たれ、勤労人民としての社会保護が確保されなければならない。そのような全人民の・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・漸く、永年強いられて来た欺瞞に盲従する習慣から脱して、少しずつ、人民の生存は人民の知慧、判断、行動で守り、平和と安定を日常にもたらそうとして動きはじめたところである。経済、政治、文化の全面にわたって人民としての要求を貫徹し、日本の民主化を徹・・・ 宮本百合子 「人民戦線への一歩」
・・・の作者は兵隊たちと、自分と、一般民衆に加えられた欺瞞と侮蔑にきびしく心をめざまされ、現実をそんなにいいかげんにしか扱えなかったことに作家としての自身をむちうたれ、悲しみと憤りにたえがたいところがあろうと思います。作家としての目の皮相さについ・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・ 漱石の両性相剋の悲劇の核は、一貫して女の救いがたい非条理性と男にとって堪えがたい欺瞞性とにおかれている。「行人」の直は、「明暗」のお敏のように自覚して夫を欺瞞しつつ、その恥に無感覚なような性の女ではない。しかしながら、一郎にとっては二・・・ 宮本百合子 「漱石の「行人」について」
・・・ 無数の青年が無垢純一な心を、欺瞞によって刺戟激励され、欺瞞に立った目的のためにすてさせられた。そのことと、作家小林多喜二が、そのように無惨な特攻隊を考え出すような非人間な権力の重圧からインテリゲンツィアをこめる日本の全人民を解放しよう・・・ 宮本百合子 「誰のために」
・・・は、よくその陋劣な欺瞞を粉砕するものである。 長篇の一部故、次回にどう発展するか待たなければならない。四月号に発表された部分についてだけ云うと、主人公である前衛が大工場の職場を弾圧によって失ってからの経過が大部分を占めている。前衛が・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価によせて」
・・・ 小説というものが、人間、女――人民の女としてこの人生に抱いている意志と情感を語るものとなって来ていることは、この四五年の日本の社会の、すべての矛盾、欺瞞をしのぐ人民の収穫として評価されなければならない。「海辺の歌」の松田美紀。一九・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・一方ブルジョア雑誌は不景気を切り抜け、民衆を現実から欺瞞する為に低級なエロとナンセンスで売りつけようとします。故に彼等は真面目な作品よりもエロとナンセンスを要求します。彼女等はエロやナンセンスを書くことを悲しいと思う。然し書かねば喰えないか・・・ 宮本百合子 「婦人作家の「不振」とその社会的原因」
出典:青空文庫