・・・あれと似たような武器も考えられるのである。しかしまねしたくてもこれら植物の機巧はなかなかむつかしくてよくわからない。人間の知恵はこんな些細な植物にも及ばないのである。植物が見ても人間ほど愚鈍なものはないと思われるであろう。 秋になると上・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・一つは自分の縄張うちへ這入って来て、似寄った武器と、同種の兵法剣術で競争をやる。元来競争となるとたいていの場合は同種同類に限るようです。同種同類でないと、本当の比較ができないからでもあるし、ひとつ、あいつを乗り越してやろうと云う時は、裏道が・・・ 夏目漱石 「文壇の趨勢」
・・・ 南側から入って螺旋状の階段を上るとここに有名な武器陳列場がある。時々手を入れるものと見えて皆ぴかぴか光っている。日本におったとき歴史や小説で御目にかかるだけでいっこう要領を得なかったものが一々明瞭になるのははなはだ嬉しい。しかし嬉しい・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・ 四人の、けらを着た百姓たちが、山刀や三本鍬や唐鍬や、すべて山と野原の武器を堅くからだにしばりつけて、東の稜ばった燧石の山を越えて、のっしのっしと、この森にかこまれた小さな野原にやって来ました。よくみるとみんな大きな刀もさしていたのです・・・ 宮沢賢治 「狼森と笊森、盗森」
・・・銃後では、家庭を破壊されたすべての哀れな女性が、軍の労働者に代って武器製造をした。これがどんな人間らしくない、不幸の図絵であったかということは今日すべての男女が知っている。いまだに疎開から家族のよびもどせない良人たちは、良人であると同時に、・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・ 知識欲のさかんな若い人々、レーニンが云っているように向上心にもえ、階級の武器として、あらゆる知識をもちたいと思っている優秀な労働者たちが、その知識慾を餌じきにされて、きたならしい饒舌、ダイジェスト文化に、時間と金を吸いとられ、頭脳をか・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ われわれの問題は、文学と云うものが、此の資本主義を壊滅さすべき武器となるべき筈のものであるか、或いは文学と云うものが、資本主義とマルキシズムとの対立を、一つの現実的事実として眺むべきか、と云う二つの問題である。 更に此の問・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
・・・ 高田はそう梶に云ってから、この栖方は、特種な武器の発明を三種類も完成させ、いま最後の一つの、これさえ出来れば、勝利は絶対的確実だといわれる作品の仕上げにかかっている、とも云ったりした。このような話の真実性は、感覚の特殊に鋭敏な高田とし・・・ 横光利一 「微笑」
・・・男は象眼のある刃や蛇皮を巻いたの鉄の武器、銅の武器を持たぬはなかった。びろうどや絹のような布は至る処で見受けられた。杯、笛、匙などは、どこで見ても、ヨーロッパのロマネスクの作品と比し得べき芸術品であった。 しかもこれらすべては、美しく熟・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
・・・それはこの鉄の武器が、人体などよりもはるかに強い関心の対象であったことを示すものであって、いかにも古墳時代の感じ方らしい。甲冑のほかには首飾りの曲玉や、頭の飾りなどのような装飾品も、「意味ある形」として重んぜられていたらしい。しかし何と言っ・・・ 和辻哲郎 「人物埴輪の眼」
出典:青空文庫