・・・交番を出でて幾曲がりの道を巡り、再び駐在所に帰るまで、歩数約三万八千九百六十二と。情のために道を迂回し、あるいは疾走し、緩歩し、立停するは、職務に尽くすべき責任に対して、渠が屑しとせざりしところなり。 六 老人は・・・ 泉鏡花 「夜行巡査」
・・・精巧な測器が具備している今日でも、場合によって科学者が指や歩数をもって長さを測る事を恥としない。それで科学の方則が如何に変っても、人間社会の幸福は損われぬのみならず増すばかりである。科学がこれによって進歩する事は申すまでもない。 これに・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・方角や歩数等から考えると、私が、汚れた孔雀のような恰好で散歩していた、先刻の海岸通りの裏辺りに当るように思えた。 私たちの入った門は半分丈けは錆びついてしまって、半分だけが、丁度一人だけ通れるように開いていた。門を入るとすぐそこには塵埃・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・ それからぜんたいこの運動場は何間あるかというように、正門から玄関まで大またに歩数を数えながら歩きはじめました。一郎は急いで鉄棒をはねおりて嘉助とならんで、息をこらしてそれを見ていました。 そのうち三郎は向こうの玄関の前まで行ってし・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
出典:青空文庫