・・・そのうち解けたような、また一物あるような腹がまえと、しゃべるたびごとに歪む口つきとが、僕にはどうも気になって、吉弥はあんな母親の拵えた子かと、またまた厭気がさした。 一二 もう、ゆう飯時だからと思って、僕は家を出で、・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・「われ巨人を切る事三度、三度目にわが太刀は鍔元より三つに折れて巨人の戴く甲の鉢金の、内側に歪むを見たり。巨人の椎を下すや四たび、四たび目に巨人の足は、血を含む泥を蹴て、木枯の天狗の杉を倒すが如く、薊の花のゆらぐ中に、落雷も耻じよとばかりどう・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・妹に真の自立性というものを教えて、勝気のために却って歪む自尊心の負傷を少くしてやりたいこと。咲が自分の亭主に対してもう少し正しい健康な意味での影響をもつように、そうしてよいものだと確信するように。それらのことは、私が家を別にして生活すると出・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・日本において民主化の諸問題が歪むのには、すこぶる深刻な後進的、半封建的条件が作用しているわけですが、それがまたある場合には外部的な力と結合されて、いっそう複雑になって来ました。ほかの国に資本主義が存在している以上、たとえ民主主義の確立してい・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・優雅な塔が歪む。……ほら倒れる。千、万のぼろ家は、ぐっしゃり一潰れだ。堂宇も宮も、さっさと砕けろ!ミーダ 夢中になって転がり出した者共が、又そろそろ棟のずった家へ家へと這込むな。慾に駆られろ! 命のたきつけをうんと背負いこめ!――面白い・・・ 宮本百合子 「対話」
出典:青空文庫