・・・女性の特徴たる乳房その他の痕跡歴然たり、教育の参考資料だという口上に惹きつけられ、歪んだ顔で見た。ひそかに抱いていた性的なものへの嫌悪に逆に作用された捨鉢な好奇心からだった。自虐めいたいやな気持で楽天地から出てきたとたん、思いがけなくぱった・・・ 織田作之助 「雨」
・・・民主的な評論家たちの次のより深い危機は、太宰治の死に際して歴然とした。太宰治は、現代の広汎な読者の心理に影響をもっているから、簡単にやっつけてはいけないというような理由で、民主的評論家の発言がひかえられた。 考えてみれば、これほど妙なこ・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・然し一九三四年という年は二月のパリ騒擾事件におけるファシストの狂暴を契機として、フランス思想界に、左右の対立が歴然表面化した時であった。反ファシズム団体が政治的に結合したばかりでなく、文化を擁護するためにフランスの思想家、作家が反ファシスト・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ことに歴然とした反撥を示していることも亦将来において展開された芸術家としての特質の萌芽として見落されてはならない一点である。ここには、本を読んだからと云って殴られる台処働きの小僧の中に燃えている人間的尊厳の抗議、給料を祖父にとられる貧しい小・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・文化の上に現れている愚劣な地方主義にしろ、科学性の蹂躙にしろ、インテリゲンツィアの最も本質である知性の正当な発動に対する相剋が歴然としている。いかに生きるべきかが考え直されている根底には、生きることがないがどうしよう、というばかりではなく、・・・ 宮本百合子 「若き時代の道」
出典:青空文庫