・・・について技術的な面で感じることは、現実の錯雑の再現とその全体の確実性の強調として、作品の上で、科学的用語や保険会社の死亡調査報告書、くびくくりの説明図などに場所を与えすぎることは、寧ろ却って読者の実感を白けさせる危険があるのではないかという・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・人口に対する結核の罹病率、流産、乳幼児の死亡率などは無理な勤労、奉仕労働などの結果昂まって来たのである。けれども、ここで私達が悲しみと憤りとを以て思うことは、戦争遂行者たる支配者たちがこの事実を、どんなに私共人民の眼から隠そうと、努力して来・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・にては、二月十七日の晩に新宅祝として、友人を招き、宴会を催し、深更に及びし為め、一二名宿泊することとなりたるに、其一名にて主人の親友なる、芝区南佐久間町何丁目何番地住何新聞記者小川某氏其夜脳溢血症にて死亡せりと云ふ。新宅祝の宴会に死亡者を出・・・ 森鴎外 「鼠坂」
・・・お医者さんの診断書貰うて、役場へ死亡届出さにゃ叱られるわして。」とお留は云った。「そんなら、もういっぺん打ちやけるか?」 秋三はお霜を眺めてそう訊くと、お霜は安次の着ていた蒲団を摘まみ上げて眺めた。「そんな汚い物、焼いて了え。」・・・ 横光利一 「南北」
・・・方と別れて一ヶ月もしたとき、句会の日の技師から高田にあてて、栖方は襟章の星を一つ附加していた理由を罪として、軍の刑務所へ入れられてしまったという報告のあったことと、空襲中、技師は結婚し、その翌日急病で死亡したという二つの話を、梶は高田から聞・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫