・・・…… この土地の新聞一種、買っては読めない境遇だったし、新聞社の掲示板の前へ立つにも、土地は狭い、人目に立つ、死出三途ともいう処を、一所にさまよった身体だけに、自分から気が怯けて、避けるように、避けるように、世間のうわさに遠ざかったから・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・心易いものと心易いものが、お互いに死出の友を求めて組みし合い、抱き合うばかりにして突進した。今から思て見ると、よく、まア、あないな勇気が出たことや。後について来ると思たものが足音を絶つ、並んどったものが見えん様になる、前に進むものが倒れてし・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・今は斯様よとそれにて御自害あり、近臣一同も死出の御供、城は火をかけて、灰今冷やかなる、其の残った臣下の我等一党、其儘に草に隠れ茂みに伏して、何で此世に生命生きようや。無念骨髄に徹して歯を咬み拳を握る幾月日、互に義に集まる鉄石の心、固く結びて・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・の小説書きながらも、つくづくと生き、もて行くことのもの憂く、まったくもって、笹の葉の霜、いまは、せめて佳品の二、三も創りお世話になったやさしき人たちへの、わが分相応のささやかなお礼奉公、これぞ、かの、死出の晴着のつもり、夜々、ねむらず、心く・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
出典:青空文庫