ある死火山のすそ野のかしわの木のかげに、「ベゴ」というあだ名の大きな黒い石が、永いことじぃっと座っていました。「ベゴ」と云う名は、その辺の草の中にあちこち散らばった、稜のあるあまり大きくない黒い石どもが、つけたのでした・・・ 宮沢賢治 「気のいい火山弾」
・・・そして残りの百六七十の死火山のうちにも、いつまた何をはじめるかわからないものもあるのでした。 ある日ブドリが老技師とならんで仕事をしておりますと、にわかにサンムトリという南のほうの海岸にある火山が、むくむく器械に感じ出して来ました。老技・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・ 太陽はいまはすっかり午睡のあとの光のもやを払いましたので山脈も青くかがやき、さっきまで雲にまぎれてわからなかった雪の死火山もはっきり土耳古玉のそらに浮きあがりました。 洋傘直しは引き出しから合せ砥を出し一寸水をかけ黒い滑らかな石で・・・ 宮沢賢治 「チュウリップの幻術」
出典:青空文庫