・・・すなわち腕を、横から大廻しに廻して殴るよりは腋下からピストンのようにまっすぐに突きだして殴ったほうが約三倍の効果があるということであった。まっすぐに突きだす途中で腕を内側に半廻転ほどひねったなら更に四倍くらいの効力があるということをも知った・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・叫び声、殴る響、蹴る音が、仄暗いプラットフォームの上に拡げられた。 彼は、懐の匕首から未だ手を離さなかった。そして、両方の巡査に注意しながらも、フォームを見た。 改札口でなしに、小荷物口の方に向って、三四十人の人の群が、口々に喚き、・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・ひとの頭を撲るやつは。」「勘定を払いな。」「あっ、そうそう。勘定はいくらになっていますか。」「お前のは三百四十二杯で、八十五銭五厘だ。どうだ。払えるか。」 あまがえるは財布を出して見ましたが、三銭二厘しかありません。「何・・・ 宮沢賢治 「カイロ団長」
・・・その女の同志はハッとして何かを口へ入れてしまったと見ると、彼等は一時に折り重り、殴る蹴る。間に、一人がステッキを口へ突込んで吐かせようと、我武者羅にこじ廻したのだそうだ。「今市電が立ちかけてるのよ、残念だわ」 留置場の入口が開く毎に・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・そして女房を殴る。工場ではどうかというと、男と同じに汗水たらして働くのに、賃銀は半分ぐらいしか取れぬ。子供を腹にかかえても、休めば工場をクビにされるから無理押しに働きに出る。そういう勤労婦人が仕事台の下へぶっ倒れて赤ん坊を生み落すのは昔のロ・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の婦人と選挙」
・・・は、理屈を云わせないために、一寸した口ごたえをしようとしても、看守はその留置人をコンクリートの廊下へひきずり出して、古タイヤや皮帯で、血の出るまで、その人たちが意気沮喪するまで乱打して、ヤキを入れた。殴る者のいないときは、そういうもので留置・・・ 宮本百合子 「誰のために」
・・・けれども子供に道理がある場合、母親がそれを静かに聴くことも出来なくなっていて、いきなり気に入らないことを一言言えばもう殴るという状態になった時、子供はそれを尊敬する母親と思えるだろうか。子供がそれを軽蔑するのは当然といわなければならない。国・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・ 五 女を殴る 先日、あるひとが百貨店へ行って買物をしていたら、ついそのわきのところに一組の夫婦がいた。 何かのことで一寸いさかいをしていると思ったら、良人の方がいきなり手にもっていた紙の丸めた棒のようなも・・・ 宮本百合子 「私の感想」
出典:青空文庫