・・・天に在っては比翼の鳥、地に在っては連理の枝、――ああ、あの約束を思うだけでも、わたしの胸は張り裂けるようです。少将はわたしの死んだことを聞けば、きっと歎き死に死んでしまうでしょう。 使 歎き死が出来れば仕合せです。とにかく一度は恋された・・・ 芥川竜之介 「二人小町」
・・・それがね、残らず、二つだよ、比翼なんだよ。その刺繍の姿と、おなじに、これを見て土地の人は、初路さんを殺したように、どんな唄を唱うだろう。 みだらだの、風儀を乱すの、恥を曝すのといって、どうする気だろう。浪で洗えますか、火で焼けますか、地・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・ 二人の定紋を比翼につけた枕は意気地なく倒れている。燈心が焚え込んで、あるかなしかの行燈の火光は、「春如海」と書いた額に映ッて、字形を夢のようにしている。 帰期を報らせに来た新造のお梅は、次の間の長火鉢に手を翳し頬を焙り、上の間へ耳・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
出典:青空文庫