・・・しかしこう云う自己欺瞞は民心を知りたがる政治家にも、敵状を知りたがる軍人にも、或は又財況を知りたがる実業家にも同じようにきっと起るのである。わたしはこれを修正すべき理智の存在を否みはしない。同時に又百般の人事を統べる「偶然」の存在も認めるも・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・いかなる赤誠があっても、それがその人一人の自我に立脚したものであって、そうしてその赤誠を固執し強調するにのみ急であって、環境の趨勢や民心の流露を無視したのでは、到底その機関の円滑な運転は望まれないらしい。内閣にしてもその閣僚の一人一人がいか・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・其の民心に浸潤するの結果は、人を誤って法の罪人たらしむるに至る可し。教育家は勿論政府に於ても注意す可き所のものなり。一 女子は我家に有てはわが父母に専ら孝を行ふ理也。されども夫の家にゆきては専らしゅうとしゅうとめを我親よりも重ん・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・を必死に否定してあらゆる矛盾した外部の状況に受身に、無判断に盲従することを「民心一致」と強調した責任は、どこにあっただろうか。馬一匹よりもやすいものと命ぐるみ片ぱしから引っぱり出されたのは、人民である。やっと生きて帰って来た世間が冷たいのも・・・ 宮本百合子 「女の手帖」
・・・文壇は作家も文学をもちぢこませてしまう、広々とした、流動する民心とともにある文学を創るために文壇は既に害あって益ないところであるというのがこの主張の論旨である。 日本に文壇というものが皆にわかる一定のまとまった形で出来たのは、自然主義文・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
・・・ 今日、共産党以外の政党は、悉く、天皇制護持という点を売りものとして、民心にこびようとしている。ラジオ放送、演説でくりかえすばかりでなく、茨城県の或るところでは、元校長の某氏が立候補して、立会演説があった。国民学校である会場へゆくと、各・・・ 宮本百合子 「矛盾とその害毒」
出典:青空文庫