・・・ 聖書 一人の知慧は民族の知慧に若かない。唯もう少し簡潔であれば、…… 或孝行者 彼は彼の母に孝行した、勿論愛撫や接吻が未亡人だった彼の母を性的に慰めるのを承知しながら。 或悪魔主義者・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・ 超世的詩人をもって深く自ら任じ、常に万葉集を講じて、日本民族の思想感情における、正しき伝統を解得し継承し、よってもって現時の文明にいささか貢献するところあらんと期する身が、この醜態は情ない。たとい人に見らるるの憂いがないにせよ、余儀な・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・ 二欧洲人の風俗習慣に就て、段々話を聞いて見ると、必ずしも敬服に価すべき良風許りでもない様なるが、さすがに優等民族じゃと羨しく思わるる点も多い、中にも吾々の殊に感嘆に堪えないのは、彼等が多大の興味を以て日常の食事を楽む・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・総ての公平な判断や真実の批評は常に民族的因襲や国民的偏見に累わされない外国人から聞かされる。就中、芸術の真価が外国人の批評で確定される場合の多いは啻に日本の錦絵ばかりではないのだ。 二十年前までは椿岳の旧廬たる梵雲庵の画房の戸棚の隅には・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・来て見れば予期以上にいよいよ幻滅を感じて、案外与しやすい独活の大木だとも思い、あるいは箍の弛んだ桶、穴の明いた風船玉のような民族だと愛想を尽かしてしまうかも解らない。当座の中こそ訪問や見物に忙がしく、夙昔の志望たる日露の問題に気焔を吐きもし・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・ これより先き、私はステップニャツクの『アンダーグラウンド・ラシヤ』を読んで露国の民族性及び思想に興味を持ち、この富士の裾野に旅した時も行李の中へ携えて来たが、『罪与罰』に感激すると同時にステップニャツクを想い起し、かつ二葉亭をも憶い浮・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・クロムウェルがアングロサクソン民族の王国を造ったことは大事業でありますけれども、クロムウェルがあの時代に立って自分の独立思想を実行し、神によってあの勇壮なる生涯を送ったという、あのクロムウェル彼自身の生涯というものは、これはクロムウェルの事・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・その簡単な有り様は、太古の移住民族のごとく、また風に漂う浮き草にも似て、今日は、東へ、明日は、南へと、いうふうでありました。信吉はそれを見ると、一種の哀愁を感ずるとともに、「もっとにぎやかな町があるのだろう。いってみたいものだな。」と、思っ・・・ 小川未明 「銀河の下の町」
・・・リップスによれば、モラールは時と処と人とによって異なる道徳的見解、要求の類であり、如何なる民族も、階級も、個人もそれぞれこれを持っている。かかるモラールには真に道にかなう因子が含まれているに相違ないが、人間が人間である限り、道にかなわぬもの・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・貧困とたたかって民族的・社会的革新のためにたたかうような青年などはお目にとまりそうにもない。 そこで青年たちは断然相互選択にイニシアチヴをとって「愛人教育」をやる気でなくてはならぬ。素質のいい娘を見つけて、如何なる青年を好むべきかを教え・・・ 倉田百三 「学生と生活」
出典:青空文庫