・・・科学、技術、経済の発達の結果、今日、各国家民族が緊密なる一つの世界的空間に入ったのである。之を解決する途は、各自が世界史的使命を自覚して、各自が何処までも自己に即しながら而も自己を越えて、一つの世界的世界を構成するの外にない。私が現代を各国・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・そこには西洋民族の主観的性向が潜んでいるということができる。唯、自己否定的方向に向った東洋文化においては、それ自身の論理というものが発達しなかった。しかし西洋文化に撞着した今日、我々は、我々自身の論理を有たなければならない。然らざれば、飛行・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・この仕方で出版された書物は、その特種なる国民的趣味を代表する表紙の一色によつて、作者自身の属してゐる民族別を表明するの外何の個別的な趣味をも指定してゐない。つまりその本当の装幀は、一切読者自身の自由意志に任かすのである。それによつて読者は、・・・ 萩原朔太郎 「装幀の意義」
・・・概して文化の程度が低く、原始民族のタブーと迷信に包まれているこの地方には、実際色々な伝説や口碑があり、今でもなお多数の人々は、真面目に信じているのである、現に私の宿の女中や、近所の村から湯治に来ている人たちは、一種の恐怖と嫌悪の感情とで、私・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・そこへ巧みにつけ入って、ドイツ民族の優秀なことや、将来の世界覇権の夢想や、生産の復興を描き出したヒトラー運動は、地主や軍人の古手、急に零落した保守的な中流人の心をつかんで、しだいに勢力をえ、せっかくドイツ帝政の崩壊後にできたワイマール憲法を・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・世界が連合国憲章をつくって、真から戦争とファシズムに反対し、一つの民族によって隷属させられる条件を否定している現代の歴史の中で、男と女は互の隷属から解放され、人間の仲間としての両性として生きられるように協力しようとしている。男と女を人民とい・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・このことは、民族の理性を守る仕事であり、人権擁護のためのたたかいのまぎれもない一面である。〔一九五〇年十二月〕 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・云うことを、精しく子爵の所へ知らせてよこしたが、その中にはイタリア復興時代だとか、宗教革新の起原だとか云うような、歴史その物の講義と、史的研究の原理と云うような、抽象的な史学の講義とがあるかと思うと、民族心理学やら神話成立やらがある。プラグ・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・これがまた逆にヨーロッパに影響して、二十世紀の初めまで、相当に教養の高い人すらも、アフリカの土人は半獣的な野蛮人である、奴隷種族である、呪物崇拝のほか何も産出することのできなかった未開民族である、などと考えていたのであった。 が、この奴・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
・・・あれほど大きい組織的な軍事行動をやっているくせに、その事件が愛らしい息長帯姫の物語として語り残されたほどに、この民族の想像力はなお稚拙であった。が、たとい稚拙であるにもしろ、その想像力が、一方でわが国の古い神話や建国伝説などを形成しつつあっ・・・ 和辻哲郎 「人物埴輪の眼」
出典:青空文庫