・・・ 勝ったおかげで一等国になれる、とよろこんだ日本の民草は、旗行列をし提灯行列をして、秀吉の好んだ桃山模様や、華美な元禄模様を流行させた。改良服は、その時代の気風のなかのいくらか合理的であろうとする面、あるいは世界の中へ前進しようとする方・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・ 明治からの日本の文化史をみれば、われら日本の民草というものが、ただの一度もヨーロッパ諸国の市民たちが経過した市民社会の生活経験というものをもっていないことは、明かな事実である。長い長い封建の時代、命さえも自分に属するものではなく、武士・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
・・・恩賜の義足、恩賜の義手、何という惨酷な、矛盾錯倒した表現であろう。民草、または蒼生と、ひとりでに地面から生え、ひとりでに枯れてゆくもののような言葉でよばれた日本の幾千万の人民が、その命に何かの重大な価値を自覚する機会は、戦争という形でしか与・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
出典:青空文庫