・・・――その赤蜻蛉の刺繍が、大層な評判だし、分けて輸出さきの西洋の気受けが、それは、凄い勢で、どしどし註文が来ました処から、外国まで、恥を曝すんだって、羽をみんな、手足にして、紅いのを縮緬のように唄い囃して、身肌を見せたと、騒ぐんでしょう。」・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・祝儀はしかし、朋輩と山分けだから、随分と引き合わぬ勘定だが、それだけに朋輩の気受けはよかった。蝶子はん蝶子はんと奉られるので良い気になって、朋輩へ二円、三円と小銭を貸したが、渡すなり後悔して、さすがにはっきり催促出来なかったから、何かとべん・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・しかし細君はごく大人しい好人物だというので近所の気受けはあまり悪い方ではなかったらしい。 主人のジュセッポの事を近所ではジューちゃんと呼んでいた。出入りの八百屋が言い出してからみんなジューちゃんというようになったそうである。自分は折々往・・・ 寺田寅彦 「イタリア人」
・・・ 帝国芸術院に対する一般の気受けについては、現在各人の胸に活きているものであるから姑くいわず、ただ、芸術院賞というようなものを制定したら、収拾し得ない紛糾をまき起す内部の事情であろうということは誰しも推察するにかたくないのである。 ・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・というような紙面で、ソ連を相手に見立てて盛な身振りをしていることなど、氏が褒めて欲しいところが案外そうでもない気受けというようなことではなかろうか。 ロマンチシズムがある社会的時期に示す危険性というものが人々の注目をひくようになった・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫