・・・が、名を知られ、売れッこになってからは、気振りにも出さず、事の一端に触れるのをさえ避けるようになった。苦心談、立志談は、往々にして、その反対の意味の、自己吹聴と、陰性の自讃、卑下高慢になるのに気附いたのである。談中――主なるものは、茸で、渠・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・裏路今までさのみでもなく思いし冬吉の眉毛の蝕いがいよいよ別れの催促客となるとも色となるなとは今の誡めわが讐敵にもさせまじきはこのことと俊雄ようやく夢覚めて父へ詫び入り元のわが家へ立ち帰れば喜びこそすれ気振りにもうらまぬ母の慈愛厚く門際に寝て・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・ 何かしら、人間ぎらいな、人を避け、一人で秘密を味わおうという気振りが深谷にあることは、安岡も感じていた。 安岡は淋しかった。なんだか心細かった。がもう一学期半辛抱すれば、華やかな東京に出られるのだからと強いて独り慰め、鼓舞していた・・・ 葉山嘉樹 「死屍を食う男」
・・・と意志(悪く、政は帰る様な気振りを見せたりした。足元を見こんで、法外な事はしないがいいと栄蔵は怒ったけれ共、冷然と笑いながら、「人の足元を見ないでいい商売は出来ませんやね。と云った。そしてとうとう桐は五十円で落されて・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
出典:青空文庫