・・・ いや、何時のまにか私も大気焔を吐いて了って。先ずここらで御免を蒙ろう。 二葉亭四迷 「私は懐疑派だ」
・・・何らの不平ぞ。何らの気焔ぞ。彼はこの歌に題して「戯れに」といいしといえども「戯れ」の戯れに非るはこれを読む者誰かこれを知らざらん。しかるをなお強いて「戯れに」と題せざるべからざるもの、その裏面には実に万斛の涕涙を湛うるを見るなり。吁この不遇・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・その後は特に俳句のために気焔を吐いて病牀でしばしばその俳句を評論する機会も多くなったが、さてその句はどうかというと、或鋳型の中に一定したという事はないために善いと思う事もあり悪いと思う事もあり、老成だと思う事もあり初心だと思う事もあり、しっ・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
・・・日本にのこっている封建的感情は、ハイ・ボールの一杯機嫌で気焔をあげるにしても、すぐ生殺与奪の権をほしいままに握った気分になるところが、いかにもおそろしいことである。この種の人々は、どこの国の言葉が喋れるにしろ、それは常に人間の言葉でなければ・・・ 宮本百合子 「鬼畜の言葉」
・・・ 此等に気焔を上げてしまいましたが、とにかく、此の積極的という事は、万事に就て、こちらの婦人の強みになって居ると思います。良人の僅かな月給を、どうしたら一銭少く使おうかと心配するより、先ず、自分が幾何補助する事が出来るかを考えます。・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 強い者勝ち、口の先だけでも偉そうな気焔を吐く者が尊ばれるこういう仲間では、黙って何でも辛棒する禰宜様宮田は、一種の侮蔑を受ける。彼の美点であり、弱点である正直などこまでも控目勝ちなところを彼等は、どしどしと利用するのである。 利用・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・ソヴェト・ロシアのことなら何でもいいと云うかもしれないが、五ヵ年計画について気焔をはいていたお前はこの失敗について何というか?」ソヴェト同盟の五ヵ年計画を中條という箇人の特許品のように云う如何にも滑稽な小ブルジュア的間違いはとにかく、箇々の・・・ 宮本百合子 「反動ジャーナリズムのチェーン・ストア」
・・・ところが、その時代はまだ婦人のそういう風な才能を押出すということはその人が社会的に本当に独立していなければ成り立たない、親の脛をかじって気焔を上げても駄目だということが分っていませんでした。そのために平塚さんたちの青鞜社の運動も或る種類の僅・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・そして気焔を吐いた。 ハイド公園に近いピカデリー通りで貴族の邸宅は年々クラブや自動車陳列店と変形しつつあった。そして、バッキンガム宮殿の鉄柵に沿って今もカーキ色服に白ベルトの衛兵が靴の底をコンクリートに叩きつけつつ自働人形的巡邏を続けて・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・だからこの集まりはむしろ若い連中が気炎をあげる会のようになっていたのである。しかし後になっておいおいにわかって来たことであるが、漱石に楯をついていた先輩の連中でも、皆それぞれに漱石に甘える気持ちを持っていた。それを漱石は心得ており、気炎をあ・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫