・・・ 教師は教員室へ帰り豚はもうすっかり気落ちして、ぼんやりと向うの壁を見る、動きも叫びもしたくない。ところへ助手が細い鞭を持って笑って入って来た。助手は囲いの出口をあけごく叮寧に云ったのだ。「少しご散歩はいかがです。今日は大へんよく晴・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・ 一太の母は、陰気に気落ちのした風でそっちへ目をやりながら、「いいよ、先生に上げるものですよ」 そして、「その方はお偉い先生で御本をお拵えなさるんですよ」と云った。「ふーん……」 一太は、考えていたが、「じゃ・・・ 宮本百合子 「一太と母」
・・・が、気落ちしているマリーナ・イワーノヴナはそれを捕えず、ただジェルテルスキーが家へ行こうと云ったのをだけ理解したように、重々しく椅子から立ち上った。 二 数ヵ月のうちに母親になろうとする体のダーリヤ・パヴロヴナ・・・ 宮本百合子 「街」
・・・ ――家へ帰んなさい。 日本女はすぐに御者の云うことを理解しなかった。 ――家へかえんなさい、もう先へは行かないよ。 気落ちしたように、だがどこまでも頑固に侮蔑を失うまいとして強く御者は云った。 ――金なんぞいらない、あ・・・ 宮本百合子 「モスクワの辻馬車」
出典:青空文庫