・・・ 短い月日の間に、はげしく推移する情勢に応じて書かれた一九三三年ごろの諸評論には、いそいで刻下に必要な階級文化のための土台ごしらえを堅めようとする著者のたたかいの気迫がみなぎっている。そのたたかいの気迫、抵抗の猛勇な精神は、その情勢の中・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・由来、日本の芸道の精髄は気稟にあった。気魄ということは芸術の擬態、くわせものにまでつかわれるものであるが、これらの場合の進退には、そういう古典的意味での伝統さえ活かされていないのはどういうのであろう。 六月某日。 オペラの「蝶々夫人・・・ 宮本百合子 「雨の小やみ」
・・・例えば漱石にしろ、文学のことがききたければ、そちらから出向いてくれと時の宰相に対しても腹で思っている作家的気魄があった。そして、彼の芸術も、彼のその気魄も、根底には当時の日本の社会の歴史がインテリゲンツィアの心に反映している積極性と同時に、・・・ 宮本百合子 「「大人の文学」論の現実性」
・・・それを発展させ、開花させ人類のよろこびのために負うている一つの義務として、個人の才能を理解したループ祖父さんの雄勁な気魄は、その言葉でケーテを旧来の家庭婦人としての習俗の圧力から護ったばかりでなく、気力そのものとして孫娘につたえた。多難で煩・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・書かれている要旨は進歩に目標をおいたものであり、ラディカルでさえあるものなのに、その文章の行間を貫く気魄において、何かが欠けていてものたりない。そういうことをしばしばきく。かえって、抑圧がひどかったとき、岩間にほとばしる清水のように暗示され・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・自分たちの不幸を底まで理解して、それを堅忍し、克服してゆく気魄がなければ、幸福感を味うことができにくい時代に来ているのである。破壊の行われているときにもやはり人類の幸福のために続けられている努力があって、それはどこにどんなに行われているかと・・・ 宮本百合子 「幸福の感覚」
・・・ここには、作家藤村の独特な生活力の粘りつよさが現れているばかりでなく、今日の私たちの胸をも引き緊める作家としての気魄が感じられる。だが、当時、何かの賞が、藤村のその精神と作品とに対して与えられたということは、どの文学史にも記されていないので・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・現実の諸関係についての一層のリアリズム、一層の粘り、一層の謙遜にして不屈なる作家的気魄の確保が、今日から明日へつづく諸経験を貫いて、文学的結実をなすであろうと信じる。 附記 今日の文学を語る上からは、当然小説以外の諸ジャンルの現・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・作者はその作者なりの気魄をこめてそういう手のこんだ老境を描いているのである。 そうやって描かれた作品の世界が、これまでの丹羽氏の作品がよきにつけ悪しきにつけ持っていた生の肌合いを失って、室生犀星氏の或る種の作品を髣髴とさせることにも、こ・・・ 宮本百合子 「作品の主人公と心理の翳」
・・・ないことについて苦悩しなければならないかという、その制約の根源をあばく気魄がないのであろうか。酵母についての科学的知識を示すならば、どうして、インテリゲンチアの生活解剖に、社会科学を活動せしめるに堪えなかったのであろうか。 久内が、父の・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
出典:青空文庫